32話 黒幕
暗殺者か、こいつは三流だな。殿下には悪いが囮として役に立ってもらう。
「誰の差し金だ?」
「言うわけないだろう。俺が殺されちまう。」
「クソッ!」
「そんな、王太子様がそんな汚ねえ言葉使っちゃだめだろう、が!」
「うわぁ!」
魂魄魔法«念話»
『殿下の部屋に暗殺者がいます。今すぐ行ってください。』
「何だこれは!」
『早く!』
「聞こえたな。行くぞ!」
「殿下失礼します!」
バン!
扉を無理矢理こじ開けた。
「何!もう守護騎士が。チッ!」
「待て!」
「追わなくていい。それより殿下が先だ。あの小娘はやはり役に立たなかったな。」
酷い言われようだが、ここから私の得意分野だ。
男が逃げていく道は普通ならば絶対に分からないような小さな穴などを使っていた。
やはり、手引きしたやつがいるな。
街の路地裏まで逃げてきた男は誰かと待ち合わせのようだ。
周りから見えない場所から様子を伺う。
すると、男の死角から矢が飛んできた。
男の首にささり、男は即死した。
最初から殺すつもりだったか。
狙撃手は注意深くこちらを伺っているようだ。
出るに出られないな。
こういうときこそ、魔道具の出番だ。
狙撃手に取り付け!
かなりの距離があるな。弓の名手だったようだ。
だがそこは私のテリトリーだ。
何とか、取り付けられたようだ。
この魔道具は盗聴だけでなく、場所も分かるようになっている。
お前が主の元へ帰った瞬間チェックメイトだ。
ふぅ、ようやく帰ったようだ。
この死体どうしよう。首持って帰るか?
でもなー、何もしてないから絶対責められるんだよな。…持って帰るか。
「今まで何をしていた。」
ほら、責める。
「暗殺者を追ってました。」
「嘘をつくな。どうせ暗殺者が出たと聞いて、怖くて震えていたんだろう。」
「そんなことしませんよ。暗殺者の事を教えたのは私ですよ。」
「なに?」
「声が聞こえましたよね。それは私の魔法です。」
「なら、なぜお前は殿下を助けようとしなかった?」
「囮になってもらおうと思ったんです。だから私が出る訳にはいかなかった。」
「囮だと!殿下を囮にしたのか!なということを!」
「まぁ、待て。で、どうだったんだい?私を囮にしたんだ、何も分からなかったというわけじゃないんだろう?」
「はい。殿下を暗殺しようとした三流暗殺者は殺されましたが、それを行った者を尾行し、誰が犯人か分かりました。」
「誰なんだね。」
「まだ言う訳にはいきません。決定的な証拠が見つかれば、皆様方にお教えします。」
「なぜ今言わない?本当は分かっていないのだろう。」
「悟らせないためです。相手が勘づく前に私達は相手を殺せるようにしなければいけない。」
「殺すか。」
「はい。」
「そのために必要な物は?」
「もう何もいりません。私は城を空けることが多くなります。騎士の皆様には、今まで以上の警戒をお願いします。」
さぁ、ヤツらの警戒能力はどれほどだろうか。
魂魄魔法・・・魂や人の精神に干渉する魔法。
魂魄魔法«テレパシー»・・・離れた位置にいる相手に言葉を伝える魔法。実際は聞こえたと思い込ませているだけ。