311話 ある若者の物語
「師匠。何だよ話って。」
「少し昔話でもしましょうか。」
「昔話?」
「ええ、昔話です。昔々、ある所に1人の若者がいました。その若者はある目的のために魔法を学んでいました。」
「ある目的?」
「死者の蘇生です。しかし、魔法は奇跡の御業ではなくキチンとした理論のあるものでした。そのため、自然に反する蘇生の方法は見つかりませんでした。それでも諦めきれなかった若者は古今東西あらゆる魔道書や神話などを読み漁りました。」
「なんで神話?」
「何かヒントが無いかと探したんですよ。そして1つの伝説を見つけることが出来ました。ある部族の儀式に死者を甦させる儀式があると。若者はすぐさまその儀式の事を調べました。その儀式は魔法理論に基づいた形で行われており、魔力を使用し正しい手順で行えば本当に発動するものでした。若者は歓喜し、すぐに仲間たちと儀式を行いました。しかし、魔法は一向に発動しませんでした。魔力が足りなかったのです。若者は魔力消費を軽減させる魔法陣を組み込むなど研究を続けました。そして、若者が老人になった頃、研究は完成した。しかし、その老人の願いが叶うことはなかった。」
「何があったんだ?」
「時間が経ちすぎていたんです。既にその人の魂はそこには無かった。これで話はおしまいです。面白かったですか?」
「色々気になるわ。それよりもどうして急にこんな話をしたんだ?」
「その老人の話が私だと言ったらどうですか。」
「は?それって師匠は転生したってことか?」
「そうですね。」
「そんな事教えていいのかよ。」
「クレソンが黙っていればいいだけの事です。まあ、前世で何十年も掛けたから今の私があるというだけの事です。」
「そう、だったのか。うん、絶対誰にも言わないよ。」
「そうしてください。私は決して才能があった訳ではありません。長い年月を掛けて成功できるようになっただけです。」
「その…ありがとな。励ましてくれて。やっぱ師匠は優しいな。」
「あなたは私の弟子なんですから、師匠としての義務を果たしたまでです。」
「そっか。じゃあさ、俺が今からケーキ食べに行きたいって言ったら付き合ってくれるか?」
「それくらい1人で行けばいいのに。」
「何だよ。いいじゃねえか。俺の奢りだぜ。」
「はぁ、何を企んでいるのか知りませんが、付き合ってあげますよ。」
「そう来なくっちゃな。」




