276話 対話
カイト視点
ここはどこだ?
誰かの部屋のようだが…
ジャラリと己を拘束する鎖を少し引っ張りながら周りを観察する。
「嬢ちゃんが必ず数日以内に来るはずだ。それまでの辛抱だ。」
「そんなのはムダだって言ったらどんな反応をするのかしら。」
「お前は…ムダってどういうことだ。」
「あなたの使っている発信機は破壊したわ。だから見つけることはできないわ。残念だったわね。」
「その程度の偽装で完璧だと思っているなら、ウチの嬢ちゃんを舐めすぎだ。」
「舐める?事実を言っているだけよ。」
「それが本当か、賭けといこうじゃないか。」
「いいわよ。」
「結果が出るまで、お前のことを教えてくれないか?」
「いいわよ。何が聞きたいの?」
「まず、サキのもう1つの人格だって言ってたよな。あれはどういうことだ?」
「簡単なことよ。サキはこの世界に来る前から多重人格だったのよ。」
「そんな話は聞いたことがないぞ。」
「ええ、あなたが死んだ後に発症したからね。あなたが死んだ後、サキは人を殺したのよ。あの時は仕方がなかったわ。でも、当時ただの高校生だったサキには耐えられなかったのよ。」
「そうか…」
「そうして、サキの罪悪感や恐怖、後悔なんかの負の感情から私は産まれた。どう?幻滅した?」
「そうだな。俺はサキが本当に辛い時に側にいてやれなかったし、気づいてやれなかった。そんな自分に幻滅してるよ。俺は、アナがサキのもう1つの人格だというならお前ともたくさん話したい。」
「…おめでたい頭をしているのね。自分を襲った敵に同情でもしているのかしら。」
「俺は、アイツの味方でありたいんだ。だから…!」
「黙れ!今さらもう遅いのよ。」
「ま、待ってくれ!アナ!…クソ」
メイ視点
「さて、ランメルとか言う死に損ないに対抗するために、色々持ってきましたよ。」
「なんだこれ?」
「それはガスマスクですね。気化した毒を吸わないようにするものです。」
「重いな。もっと軽いの無い?」
「そう言うと思って、ありますよ。解毒の魔法を付与したマスクです。」
「これは軽いし、呼吸の邪魔にもならなそうだな。」
「はい、オススメですよ。後は敵のアジトに踏み込むので、念の為再生薬を渡しておきます。」
「これってかなり貴重なヤツじゃないか。」
「自分で作れるので、貴重でもなんでもないですよ。」
「マジか」
「さて、これで準備は整いました。最大の作戦目標はカイトの救出です。行きますよ。」
「おうとも。」