266話 バトルモード
「お出かけデスか?ご主人様」
「ああ、実験用の触媒が欲しくてね。ついてくるかい?」
「ハイ、外は危ないとマスターが言っていまシタ。」
「じゃあ、行こうか。無理に隠さなくてもいいって言うのは楽でいいね。」
「ハイ、ワタシが外に出るのも注意しなければいけなかったデスからね。」
ニコラスはスラム街の方へ移動した。
「店はこっちだよ。」
「ここはマスターが危険区域に指定している場所デス。別のお店に行きませんカ?」
「大丈夫さ。メイくんから何か騒ぎが起こった方がいいって言われてるからね。」
「そうなんデスか?」
「そうそう、それに危ないことなんてそう簡単に起こらないさ。」
「ご主人様がそう言うなら…」
スラム街を少し進んだ場所に目的の店はあった。
「婆さん、いるかい?」
「ん?なんだい、またアンタかい。」
「またってなんだよ。僕は良客だろ?」
「毎回値切ってくる癖に何が良客かね。それよりもソッチの子は誰だい?」
「僕の助手兼護衛のナナだよ。」
「えっと、はじめまして、ナナデス。」
「助手かい。なら、いいか。」
「さて、じゃあコレとコレ、後はそこにあるヤツも欲しいな。」
「締めて8万ゴルドだよ。」
「高すぎないか?もっとまけてくれよ。」
「何言ってるんだい。この素材は一般には出回らない貴重なモノばかりさね。そんなに言うならもう売らないよ。」
「今回はダメだったか。仕方ない」
「あの、ご主人様…」
「分かっている。でも、まだ知らないフリを続けるんだ。この店が無くなったら困る人はたくさんいるからね。」
「ハ、ハイ…」
店を出て歩いていると、
「来たか」
男が正面から歩いてきた。
「様子がおかしいデス。ご主人様はワタシの後ろへ」
「心配無いと言いたいところだが、ここは任せるとしよう。頼んだぞ。」
「お任せくだサイ。」
ニコラスはナナを置いて走り去っていく。
「おいおい、見捨てられてるじゃねえか。可哀想に」
「動かないでくだサイ。それ以上進むなら、敵対していると見なしマス。」
「テメェみたいなガキに何ができるって言うんだ?」
「警告はしまシタ。バトルモードへ移行、制圧を試みマス。」
ナナはサングラスのようなモノを掛け、どこからか伸縮式の棒を取り出す。
「いいねぇ。無駄な抵抗かもしれないが、楽しませてくれそうだ。オラァ!」
男は脱力した状態から一気に距離を詰め、拳を振るう。
ナナはそれを避け、足払いから連撃を叩き込む。
「ハァッ!」
「痛てぇな。やるじゃねえか。だが、その程度じゃ俺には勝てねえ。制圧なんて以ての外だ。」
「やってみなければ分りまセン。人の限界など意外に早く訪れるものデス。」
「それはアンタも同じじゃないのか。戦いってのは我慢比べなのさ。どちらが先に力尽きるかのな!」
「隙だらけデス。」
「ガフ!」
「ハァ!」
飛びかかってきた男の喉を突き、怯んだ隙を狙い居合の要領で自分の倍はある男を投げ飛ばすナナ。
それでも油断はしない。
なぜなら、砂ぼこりの奥から男が起き上がっている仕草を感知したからである。
「これじゃあ、ラチがあかねえな。長々とガキと遊ぶ趣味はねえんだ。」
男はそう言うと、懐から取り出した錠剤を噛み砕いた。
「ぐ、グアアアア!!…ふぅ、力が湧き上がってくるぜ。ほらよ」
無造作に動いたように見えたにも関わらず、一瞬でナナの横に移動し、攻撃を放つ。
「クッ!」
ナナは何とか回避しようとするも、腕に攻撃が掠ったようで、腕を損傷し、皮膚が剥がれ内部が見える状態になってしまう。
「あ?テメェ人間じゃねえのか?それはそれでおもしろそうだな。気が変わった。テメェがぶっ壊れるまで遊ぶことにしたぜ。」
「損傷軽微、戦闘続行。敵の脅威度を上方修正。制圧は不可能と判断。排除しマス。」
「排除か、やれる物ならやってみろ!」
サングラスのようなモノ・・・正式名称はアナライズゴーグルで相手の身体的特徴などを分析するほか、サーモグラフィーにより煙幕の中でも活動が可能になる。
情報量が多いため普通の人間では使用できず、メイはこれ以上に高性能な魔法を使用しているということで実質ドール専用装備。