259話 王都にかかるモヤ
「色々あったけど、王国に着いてホッとしてるよ。」
「王子、まだ王都まで数日あるんですから、気を抜かないでください。王国にも山賊はいるんですから。」
「無感動だな。数年ぶりに帰ってきたんだ。ちょっとくらい感傷に浸ってもいいじゃないか。」
「それを後にしてくださいと言ってるんです。」
「君たちはどう思う?」
「別に、ここは国王派の領地なので、好きにすればいいんじゃないですか?」
「よく知っているね。兄上に教えてもらったのかな?」
「そんなところです。」
何事も無く、王都に着いたのだが、
「様子がおかしいですね。何かあったんでしょうか?」
「薄くモヤが掛かっているね。何だこれ?」
「幻術の媒体でしょうか。」
「吸い込んだら幻術に掛かったりするのかい?」
「はい。吸い込むと死ぬまで寝たきりになる可能性があります。術者の能力にもよりますけど。」
「ふむ、それなら1度外に出た方が良さそうだ。」
「我らがいない間に何があったのだ!」
「落ち着いて、取り乱したところで敵の思う壺だよ。とは言え、どうしたものか。」
「私は中を探ってきます。カレンは彼らを守ってください。」
「本気で言ってるの?」
「あれを長時間吸い込めばあなたも彼らも死にます。ここにいる全員を死なせる訳にはいかないんです。」
「…分かったわ。やっぱり、私は足手まといになっちゃうのね。」
「今はまだと言ったところでしょうか。あなたはもっと強くなれます。焦ってはいけません。」
「分かった。早く帰ってきてね。多少のケガは許すわ。」
「普通逆じゃないですか?…行ってきます。」
モヤの中に入ったメイは再度分析する。
「成分は麻薬のような物でしょうか。この中に1時間いれば依存性が発現し、2時間程度で死に至ると。何ともめんどうなものを持ってきましたね。この中を探してもあるのは死体だけ、どこかの地下か城に行くべきですかね。」
生命反応を頼りに地下室を見つけ、扉を開けると、
「なんだ、ただのゴロツキか。」
「おい、扉を閉めようとするな。」
「王都を裏で牛耳ってるあなたがなぜこんなところに?」
「突然モヤが掛かってな。それを吸い込んだ子どもや動物が倒れたんだ。んで、これはヤバいってことで、この地下と城に二手に別れて逃げ込んだんだ。こっちにいるのは脛に傷のあるヤツらばっかりだから城に行きづらかったヤツらだな。」
「地下に隠れたからと言ってモヤの侵入を完全に防げた訳ではありませんよね?」
「アンタがくれた無毒化の魔道具のおかげさ。これをフル稼働させてる。」
「私の魔道具をキチンと使っているようで安心しました。私は城に行ってみようと思います。仕方ないですから、これをあげます。」
「なんだこれ?」
「その魔道具のバッテリーです。あと少しで魔力切れで動かなくなるところでしたよ。2つ渡しておくので、頑張ってしのいでください。それじゃあ」
「恩に着るぞ!」
異変を解決するために、メイは奔走するのだった。