256話 詮索
「魔物に間違えられるなんて、何やってるのよ。」
「勝手に見間違えたのが悪いんですよ。」
「なんの話をしているんだ?」
「いえ、珍しい魔物が出ているのだと話をしていただけです。」
「そうだな。明日はその魔物に遭遇する前に素早くここを抜けよう。」
「はい。」
「殿下、帝国が関わっていると、思いますか?」
「どうだろうな。目にも留まらぬ速さで移動できる距離はせいぜい数十mだ。そのまま見えなくなるほどの距離を移動したのならば、人間ではない。魔法の負荷に耐えられないからな。」
「では、自然発生的に出現したと?」
「現時点では情報が少なすぎる。この目で見ることが出来れば、何らかの結論を出すことはできるがな。」
「用心する以外の警戒方法は無いということですね。」
「そうだ。それと、あの姉妹のことだが、正体を暴こうとするのはやめろ。兄上は無能に仕事を任せることはしない。お前たちが何か企んでいることにヤツらも気づいている事だろう。」
「ですが、ドワーフなんて嘘をついているんですよ。」
「だからどうした。ドワーフだろうが、魔族だろうが、利用できるものは利用する。いつもやっている事だろう。詮索は無しだ。分かったな。」
「は、はい…」
「ふむ、あの王子も賢いようですね。」
「どうしたの?」
「賢い人がトップにいると、楽でいいですね。」
「何のことよ。1人で納得していないで教えてよ。」
「明日も早いですし、寝ますよ。」
「もうー!」
「ちょっと、叩かないでくださいよ。」
ポカポカと叩いてくるカレンを連れながら、背後に視線を向けるメイだった。
???視点
「監視を気取られたか。」
「どうしますか?」
「第二王子を殺せる大チャンスなんだ。退くことなどできん。だが、あのフードを被った2人組、あんなヤツら知らんぞ。」
「情報によると、ドワーフと名乗っていたそうですが…」
「あんなのがドワーフなワケ無いだろ!もっと調べろ。」
「それともう1つ、応対が派遣したという情報もあります。」
「何?チッ、退くぞ。俺たちじゃ無理だ。」
「どういうことですか?2人だけしか増えていないなら、いけるのでは?」
「バカ野郎!王太子を甘く見ちゃなんねえ。あの王太子が2人で十分だと判断したんだ。俺らみたいな小隊が手出しするべきじゃない。そんなにやりたいならお前だけでやれ。俺は降りる。」
「過大評価しすぎなのでは?」
「俺は昔、王太子と戦ったことがある。あの時の戦争では、王太子の策略で帝国軍は壊滅的な被害を受けた。その時に動員された王国側の兵士はたったの30人だ。対して帝国軍は2万の軍勢だった。あの時、前方にいるのは100人に満たない人数だと偵察で知った俺たちは負けることはないと、油断してたんだ。それが全ての失敗だった。だからたった2人だからって油断してたら、お陀仏だぜ。」
「分かりやした。隊長の指示に従います。」
王子を待ち伏せていた部隊が1つ去っていった。
この判断が命運を分けたことを知るのはもう少し後になった。