234話 契約書
演習場から出て行く3人を見送ったあと、空間魔法を準備する。
辺境伯から放課後に自分の所にテレポートして来いと連絡を受けているからだが、
「何かしましたかね?」
首を傾げながらテレポートを発動し、目の前の空間に空いた穴を通る。
転移すると辺境伯が座っていた。
「お、来たね。」
「何かご用ですか?」
「君に用があるのは私ではない、案内しよう。」
辺境伯に案内され、屋敷の中を歩く。
「ここはどこですか?」
「ここは王都だよ。」
「王都ですか?となると用があるのは殿下でしょうか?」
「よく分かったね。」
「王都の知り合いは殿下しかいないので。」
「そういえばそうだったね。」
「この部屋だ。殿下、失礼します。」
コンコンと扉をノックし、扉を開ける。
「メイ嬢、久しぶりだね。どうして呼ばれたか辺境伯から話は聞いているかい?」
「いえ、話があるとしか聞いていません。」
「そうか、では話そう。先日、カルーディアという街が魔族に襲われてね。そこに聖神の使徒なる人物が出現したらしいんだ。その人物は2人の魔族を軽々と倒し、姿を消した。私は魔族を倒せる人間を君しか知らない。使徒って君のことなんじゃないのかな?」
「正直に言って欲しいんだ。君が使徒だと言うなら我々が手伝えることがあると思うし、違うならその人物の調査を頼みたいと思っている。」
「どうして、私だと思ったんですか?何か理由が無い限りわざわざ私を呼び出すことはしませんよね。」
「君が使徒だと推測した理由は、使徒の髪が銀髪だったからだ。それにその数日前に君はカルーディアにいたらしいじゃないか。」
「…やはり、髪の毛の色は変えておくべきでしたかね。」
「認めるんだね。」
「ええ、私が使徒です。」
「君の目的は?」
「人間に悪意を持った魔族を倒すことです。私の友人たちがその被害にあったら大変ですから。」
「なるほどね。それなら私たちの目的は同じだ。この国の民を守るために力を貸して欲しい。」
「ええ、喜んで。」
「ちなみにどうして話そうと思ったのか聞いてもいいかな。」
「どうせ目星を付けていたのですよね。それなら周りをうろちょろされるより、正体を明かした方が得だと思ったからですよ。」
「もしかしたら君に助力を求める時が来るかもしれない。その時は力を貸してくれるかい?」
「では契約を結びましょう。双方に利がある対等な契約を。」
「そうだね。私も常々口約束では意味が無いと思っていたのだよ。話が早くて助かる。」
「では、私はその契約の見届け人になりましょう。」
契約を結び、条項を確認する。
「メイ君のことを甲、殿下のことを乙として以下に記す。
1、どちらかが助力を求めた際必ずその求めに応じること。
2、甲は自身の信念に反する命令を受諾する必要はなく、乙も非合理的な要求を呑む必要はない。
3、甲、乙の一方がもう片方の暗殺や作戦妨害の実行を行ってはならない。
4、以上3つの条項を破れば、身体を蝕む呪いが死ぬまで付与される。
以上ですね。」
「簡単なことですが、これで裏切られる心配はなくなりましたね。」
「有意義な契約になって良かったよ。これからも頼むよ。」
「ええ、こちらこそ。」
2人の怪物が手を組んだ瞬間だった。