229話 聖神の使徒
勇者視点
「ハァハァ…」
水門を破壊した影(恐らく魔族)はまったく動くことは無かった。
しかし、こちらの様子を伺っており、何かあればこちらを攻撃する用意があるように思える。
「……!…い!おい!何やってるんだ!惚けてる場合じゃないぞ!」
「でも、アイツが…」
「俺だって全身に鳥肌が立つくらいにアイツの視線は感じてる!でも今は港に入り込んだ魔物の方が先だ!」
「…分かりました。早く片付けてしまいましょう。」
一瞬迷ったが、この街の人々を助けるために来たのだという当初の目的を思い出し、リーゲルさんと共に魔物を目指して走った。
メイ視点
ある建物にメイはいた。その手に握られた長剣には血がベットリと付いており、その後ろには数人の男が倒れていた。
「バカはどこにでもいるものですね。」
『荒唐無稽すぎて逆に面白かったわい。』
メイが出てきた建物は街中の水路を管理している建物であり、男たちは水路を開け放つことで魔物を街の奥まで誘導しようとしていた。
「自分たちは魔族に協力しているから魔物に襲われないって、魔物がそんなこと理解できるはずないじゃないですか。」
『殺してよかったのか?』
「計画段階ならともかく、実行しようとしていたんですよ、情けをかける必要などありません。」
『そうじゃな。』
「次は巫女の方ですかね。バカのせいで忙しいですね。」
『まったくじゃ。コヤツらのせいでワシの仕事も増えておるんじゃが!?やはり馬鹿者には容赦など必要ないかもしれんの。』
「慈悲深き聖神とは何だったのか。」
『そんなことは知らん!信者共が勝手に言っとるだけじゃ!』
「変なことで威張らないでもらえます?」
『神殿が襲われとるぞ。巫女が無事な間にさっさと片付けるのじゃ!』
「話を逸らさなでください。まったく…」
メイは神殿を襲っている賊を全て斬り捨てた。
「歯ごたえが無さすぎて、準備運動にもならないんですが。」
「お、お前は何者だ!」
神殿を警備する兵士に取り囲まれてしまった。
「あなた方が知る必要はありません。」
そう言って去ろうとした時、巫女であるエマエラが飛び出してきた。
「お待ちください!あなたは、聖神の使徒様ではありませんか!?」
「……『そうですと言っておけ』そうですが、何か?」
使徒って何?となっていた、メイにこそっと助言をしてみる聖神、
「やはりそうだったのですね。海神から神託があったのです。聖神の使徒がこの街の危機を救うと、どうかこの街を救ってください。」
「この街を守るのはあなた方です。私に願ったところで、この街を守ることなどできませんよ。」
冷たく言い放ったメイは今度こそ神殿を去った。
『あそこで懇切丁寧に対応してやれば良かったのに。』
「私がもっとも危惧しているのは、この街が誰かに依存することです。もしその人物がいなくなればどうなってしまうのか。それだけは避けなければいけません。先ほどの彼らは私に任せればいいと思っていたので、突き放すしかなかったんですよ。」
『よく見ておるのう。』
「私はその人の魔力を見れば何考えてるかだいたい分かるので。」
『それでは隠し事できないではないか。』
「しなくていいんですけど。…次は水門に行きましょうか。勇者、どれほどか少し楽しみですね。」
『出たな、この戦闘狂め。』