228話 侵攻
勇者視点
兵士に取り囲まれた俺は状況がまったく飲み込めていなかった。
「え?どういうことですか!?」
「おい!手を上げろ!この誘拐犯め!」
「待ちなさい。その人は私の頼みを聞いてくれただけです。捕らえる必要はありません。」
「あなたは襲われていたんじゃないんですか!?」
「あれは、私の護衛でした。せっかく神殿を抜け出したのに、捕まってしまうのはつまらないでしょう。」
「あなたは何者なんですか?」
「私は海龍の巫女、エマエラです。」
「…海龍の巫女だって?」
「もう会うことは無いでしょう。楽しかったですよ、ありがとう。」
去っていくエマエラを呆然と見送り、しばらくその場で立ち尽くしていた。
我に帰った俺はトボトボと宿に帰って行った。
その時、背筋が凍るような気配が海の方に突然出現した。
「な、なんだこれは!とにかく、みんなと合流しないと!」
俺は慌てて宿まで走っていったのだった。
メイ視点
「警備が厳重な神殿を抜け出すなんて行動力の塊ですね。」
『なんじゃ、大捕物が見られると思ったのに。』
「趣味悪いですよ。」
『チェ』
「子どもですか。」
その時、海の中から膨大な魔力が溢れ出した。
「この魔力、まさか空間魔法でしょうか?」
『魔族と魔物共が海の中に出現した!まっすぐ港を目指しておるぞ!』
「空間魔法が使える魔族がいるとは盲点でした。」
『だからいくら探し回っても見つからなかったんじゃな。行かんのか?』
「まだ、私が出る必要はありません。いざとなれば助けに行きますが、今は彼らの力量を測らせてもらいましょう。」
勇者視点
「ユリエス殿!」
宿に戻ると全員宿から出てきていた。
「何かあったんでしょうか。」
「分からねえ、ギルドに行くぞ。緊急事態の時に1人で動いても邪魔なだけだからな。」
ギルドに向かうと魔物の群れが突如出現したという報告がなされていた。
「いいか!なんとしてでも魔物共を街に入れるな!既に水門は閉めているため時間稼ぎはできるがそれだけだ!水門が破壊される前に敵を殲滅しろ!今回は働いたら働いた分だけ金を払ってやるぞ!」
「「おお!」」
「これってまずはどうすればいいんでしょうか?」
「敵が水門の向こう側にいるなら俺たちは石でも投げるしか無いさ。こういう魔物の群れとの戦いは魔法士の独壇場だ。」
「私に任せなさい。」
エイラはドンと豊満な胸を揺らし、強者の余裕を見せた。
水門に着き、壁の上から海を覗くとうじゃうじゃと魔物が門を破壊しようと暴れまわっていた。
「魔物があんなに、あんな大群が街の中に入ってきたら…」
「それをさせないための俺たちだ。俺たちは下に降りて備えるぞ。」
「はい、エイラさん。ご武運を」
「それは私のセリフだよ。ケガしないようにね。」
「はい!」
魔法士や弓兵が順調に魔物を倒していく。
「これなら俺たちの出番は無いようだな。」
「よかった、いつまで経っても戦いは慣れませんから。」
「ハハハ、お前は優しすぎるんだよ。…!なんだこの魔力は!」
「これは!俺が最初に感じた魔力だ!」
その瞬間、壁の上に魔法が炸裂した。
「うわぁ!」
「きゃああ!」
魔法は防ぐことが出来なかったようで、上にいたほとんどの人が手傷を負ってしまったらしい。
「マズイ!攻撃の手を緩めるな!」
次の瞬間、水門に先ほどの魔法よりも大きな衝撃が加えられた。
「これは…気を引き締めろ。気を抜けば死ぬぞ。」
再びの爆発音が響いた後、門が内側に倒れ、大量の魔物が街の中に入ってきた。
だが、俺は恐怖からか、水門を破壊した影から目を離すことが出来なかった。