225話 勇者到着
その後も魔族と魔物の群れを探したが、見つけることは出来なかった。
「いませんね。ホントに魔族がいるんですか?」
『街の中で魔族と協力すると話しておったから間違いないぞ。』
「せっかく神殿を作ったのに、それも反応は無かったのでしょう?」
『うむ、ここら一帯に魔族や魔物の群れを発見することは出来なんだ。』
「遠くの海から泳いでくるつもりなんでしょうか?それともその話していた人たちが嘘を言っている可能性もあげられます。」
『嘘では無いぞ!ワシは人の心が読めるのじゃからな。』
「では、よっぽど上手く隠しているのでしょうね。最初に群れを一掃したのはマズかったのかもしれません。」
『手がかりが無いのなら、勇者を監視するしか無いぞ。』
「勇者ですか、ホントに大丈夫なんですか?」
『勇者には事件を吸い寄せる運命が課せられておる。この街で勇者が遭遇する人々は必ず何かしらの事件に関係しておるのじゃ。ワシもなぜ勇者にそんな運命があるのか分からんが。』
「まあ、手がかりも無いし、それしか無いですね。」
『うむ、1日早く勇者が到着したようじゃよ。』
「見に行ってみますか。」
メイは顔の上半分を隠すためのハーフマスクを取り出すと、それを被った。
『なんじゃそれ。』
「認識阻害の仮面です。顔を覚えられるのは困るので、作ってみました。」
『よく出来ておるの。』
勇者一行はただの旅人として街に入ってきていた。
『戦士としての実力はまだ低いが、このままいけばソナタでも簡単には倒せない存在になるじゃろう。』
「なるほど、ということは早めに潰しておくべきですかね。」
『辞めんかい!!』
「冗談ですよ。彼が今のままなら私の利益とぶつかることはありませんから。」
『それって利益がぶつかれば容赦しないってことじゃ…』
「当然でしょう。」
『人類の希望を躊躇なく潰すってかなりヤバいんじゃが。』
「今は潰しませんよ。今は…」
『すごい、こんなにも安心できないことってあるんじゃな。』
勇者視点
俺の名前はユリエス、王立学園の3年生だったんだけど、突然勇者として招集されたんだ。
突然のことで混乱してたけど、聞いてみれば神託で俺が指名されたらしい。
その後は勇者としての訓練を受けた。
かなり厳しい訓練だったが、衣食住の待遇はよかった。
貧乏伯爵家に産まれた俺にとって望むことすらできないような待遇だったのだから驚きだ。
そんな俺は初任務ということで、港湾都市カルーディアという街に来ている。
何でもこの街で起こる事件を解決したら勇者として大々的に国中に知らせるらしい。
ん?誰かに見られた?
「あの、護衛の方は他にいないんですよね?」
「ええ、我々以外にはいませんが、どうしました?」
王都から一緒に来ている、司祭長のマクエスさんに聞いてみる。
「いえ、どこからか視線を感じたので。」
護衛でないなら事件を起こそうとしている犯人だろうか?
「ふむ、警戒しておいた方が良さそうですね。リーゲル、エイラ」
「分かってるよ。一瞬だが俺っちも視線を感じたからな。」
「でも、こんなに人が多いと特定は難しいわ。」
「下手なことはしなくていいんだよ。相手が襲ってきたら返り討ちにしてやればいいんだ。」
「分かったわ。」
リーゲルさんは戦士で、エイラさんは魔法士らしい。
2人ともAランクの冒険者で今の俺ではどう足掻いても勝てないくらい強い。
「これからどうしますか?勇者様」
「勇者様なんてやめてください。まだ俺は勇者じゃないし、バレたら大変ですから。名前で呼んでください。様付けもなしでお願いします。」
「分かりました。では、ユリエス殿どうしますか?」
「まずはこの街を見てまわりましょう。戦うことになるならこの街の配置を知っておくことは大事ですからね。」
「お、分かってるじゃねえか。周りの地形を把握することは冒険者として当たり前のことだからな。観光がてら行こうぜ。」
「これは観光じゃないのですよ!そもそも…」
一行が街の喧騒に消えていく後ろで、
「まさか、気づかれるとは。勇者から見れば私もこの件に関わっているということですか。」
『当然じゃ、運命がソナタらをあわせようとするじゃろう。』
「そういうことは先に言えと、何度言えば分かるんでしょうか。」
『許してチョンマゲ』
「ぶっ〇すぞ」
『冗談!冗談じゃから!ペンダントがミシミシ言っておるから!』
「まったく、次はありませんよ。」
『すいません』