216話 なんでそんなに・・・
「まだですか?」
「ち、ちょっと待って!」
出掛ける準備を終えたメイがヒスイルをせかす。
「こういうのってさ、女性側が待たせるもんなんじゃないか?」
「知りませんよ。私の準備が早いだけでしょう。」
「なるほど。…もしかして、化粧してる?」
「薄くですが、してますよ。」
「マセてんなー、そう言えば、サキも嬢ちゃんくらいの歳から化粧してたわ。」
「化粧って中々楽しいんですよ。」
「そんなものなのか?」
「絵を描いてるみたいな?」
「思ってたんと違うな。それはそうと、カレン様は?」
「今日は用事があるらしいんですよ。」
「朝からサキがいないのはついて行ったからか。アイツの人見知りも治ってきたな。」
「なんで知らないんですか。一応護衛ですよね?」
「フハハハ、そんな予定は一言言われなかったからだ!…俺ハブられてる?」
「こんな所で落ち込まないでください。」
「用意できたぞ。」
「では、行きましょうか。」
「やはり休日は人が多いですね。はぐれないように…」
「うわ!あれはなんだ?」
「ちょっと!いきなりはぐれたじゃないですか。」
魔法でマークをしているので見失うことはないが、少し痛い目を見させるのもありかもしれない。
ほら、1人なっていることに気づいて涙目で探す羽目になっているじゃないか。
ん?マークが消えた。…違う、魔法を遮断する布に覆われたみたいだ。
うっすらとだが、感知できる。
仕方ない、助けに行ってやるか。
屋根の上に飛び上がり、ヒスイルが連れ込まれた路地裏まで移動する。
ヒスイル視点
市場に来て屋台を見ていたら、メイがいなくなっていた。
僕は男だから泣いたりしないけど、メイは女だから泣いちゃうかもしれない。早く探さないと。
「うわ!?」
突然布を被せられ、どこかに運ばれた。
周りの状況が分からず、どんなヤツらが敵なのかも分からな…い。
不容易に助けを求めれば、周りの人間が死ぬかもしれない。
そんなのはダメだ。カタギに手を出すのはご法度だからだ。
そんな訳で大人しく連れ去られる。
乱暴に降ろされた。投げたの方が正しい気もする。
布が取られ、一瞬目が眩むも、敵が2人だということは覚えた。
これが役に立つのは生きて帰ることができた時だけだが…
男の1人がナイフを取り出した。刃はギザギザであんな物で斬られたら、傷がグチャグチャになってしまう。
クソ、目が潤んで前が見えねえ。
「ククク、このガキ泣いてやがる。」
「泣いてなんかない!俺は男なんだから泣かない!」
「そうかそうか。おい、ガキ。テメェに恨みはねえが、こっちも生活がかかってる。恨むならお前の父親を恨めよ。」
刃が振り下ろされる。
ギュッと目をつむったがいつまで経っても痛みは襲ってこない。
恐る恐る目を開けると、
「メイ!なんでここに!」
「よく我慢しましたね。偉いですよ。」
「こ、子ども扱いするな!」
手を振り払おうとしたが、それすらいなされ頭を撫でられる。
「もう少し、早く助けに入るべきでしたね。ごめんなさい。」
「謝るのは俺の方だ。ごめんなさい。俺が勝手に動き回ったから。」
「はぐれないように手を繋ぎましょう。これで大丈夫です。」
「うん。」
その後は市場を楽しむ気にはならず、屋敷の人たちのお土産を買って帰った。