212話 待機中
監視を始めて数時間が経った。
「はぁ、早く終わらせて帰りたかったんですけどね。」
『何かあったのか?』
「今日課題が出てるんですよね。パパっとやってしまいたかったんですが、ここに持ってこれば良かったですね。」
『難しいのか?』
「内容は簡単なんですが、問題数が多いんですよ。」
『まだ動きそうにないし、1度帰って取ってきたらどうじゃ?』
「そうします。」
「とってきましたよ。」
『机も一緒に持ってきたのか。』
「地べたに置くよりもやりやすいので、1度帰ったなら持っていってもいいかなと。」
『それにしても、ソナタが人の目をきにするとはな。正直意外じゃった。』
「今の私は学園に通わせてもらっている身です。下手に騒ぎを起こすのは得策ではありません。それに、無駄な諍いを処理するのはエネルギーを結構使うんですよ。」
『ソナタがいたって普通の思考をしていて良かったわい。世界には、時折いるんじゃ。怪物のような衝動や欲望に駆られる人間が。もし、ソナタがそんな人物なら、この世界は滅びの運命を辿ったのかもしれん。』
「そうなれば、神が出てくるのでは?」
『前にも言ったじゃろ。ワシらを管理するさらに上位の存在の話を。ソナタが亜神であったとしても、ワシらにできることはほとんど無い。あの方がそれを許さんのじゃ。できることは滅びた世界をもう一度作り直すだけじゃ。歯痒いがの。』
「そうですか。よし、課題終わりです。まだ、動きそうにありませんね。」
『そう言えば、夕食は食べなくても大丈夫なのかの?』
「1度くらい食べなくても大丈夫ですよ。」
それからさらに数時間、村のすべての人間が寝静まった頃、ソイツは動き出した。
「動きましたね。見張りも寝ている。これは、魔法を使ったんでしょうか?」
『魔法の反応は感知できなかったぞい。恐らく、ガスか何かを使ったんじゃろう。まだ、漂っている可能性もある。警戒は必須じゃ。』
「分かってますよ。」
相手の出方を見るために、話しかけてみる。
「こんな時間に何をしているんですか?」
男はビクッと身体を震わせたが、コチラを向き、子供であることを確認すると、明らかに安堵した表情をした。
「子どもがこんな時間に外を出歩いたらダメだろう。さあ、どこに住んでんるだい?送ってあげよう。」
近づこうとした男に剣を突きつける。
「何をしていたのか聞いている。答えろ。答えなければ、盗賊として斬り捨てる。」
「斬り捨てるねえ、君みたいな子どもに何ができるって言うんだ。そんなバカなことを言っていないで、早く帰りなさい。」
「この村の人間は全員寝ている。それはここに駐留している騎士団も同じ。それなのになぜ、あなたは起きているんです?」
「そんなの、おじさんが夜更かしが得意なだけの話じゃないかな?他の人は…そう、疲れてたんだよ。」
「眠っているのは人間だけ、逆に普段は寝ている家畜が興奮して起きている、これは明らかに異常です。そして、あなたが寝ていないのも、ここから導き出せる。」
「何言ってるんだ。頭おかしいんじゃないか?」
「お前は人間じゃない。もっと詳しく言うと、魔族。そうなんでしょう?」
魔族という単語に一瞬反応したのを見逃すはずもなく、
「やっぱりか」
とつぶやく。
「いい加減にしないと…うわ!」
男が反応できるギリギリの速度で剣を振り、脅しをかける。
「お前の前にいるのは迷子の子どもじゃない。お前を殺しに来た死神だ。早く正体を現さないと本気を出す前にあの世いきだ。」
「計画は完璧だったはずなのに。どこから漏れたのか。お前には洗いざらい吐いてもらはないとな。」
人間の姿をしていた男は魔族の姿に変化し、街の外まで移動した。
「戦ってる最中に、起きられると困るんでな。死なないように手加減してやるよ。」
「それはありがたいですね。殺しやすくて、助かります。」