197話 復讐心
「ねえ、いい加減死んでくれない?クヒヒ」
「お前こそ、いい加減諦めたらどうだ?」
糸には毒が滴るほど染み込まされており、それが気化することで、毒を無意識に吸わせているらしい。
糸をかいくぐり、攻撃しようとするが、糸を使い上手く避けられてしまう。
「そこだ!」
「おっと、危ない。」
「糸で移動するなんて…スパイダー…『おい、そんな状況じゃないって分かってるよな?』あ、はい」
「決め手に欠ける。どうすべきか…」
「おい!お前たち!そこで何をしている!」
「げ、衛兵かよ。屋根の上で暴れてたらそりゃ怪しまれるよな。」
「邪魔なのが来たね。殺しちゃおうか。」
ランメルの意識が衛兵に向いた瞬間、カイトはランメルに接近した。
「させるかよ!」
「クヒヒ、こっちに来ていいのかい?」
ランメルはカイトのことは構わず、衛兵に攻撃を加えようとした。
「対処済みなんだよ!」
「何?」
カイトがいた屋根の上を糸が通り過ぎた瞬間、罠が作動し糸が断ち切られた。
「よそ見してていのかよ!」
「チッ!」
カイトの攻撃を糸を使って回避しようとしたが、回避しきることはできず、足に傷を負った。
「今までみたいにピョンピョン飛び回るのはできなくなったな。」
「糸があれば足が使えなくなっても問題無いさ。クヒヒ」
「その糸ってのはこれのことか?」
カイトの手には巻かれた糸が握られていた。
「それは…替えの糸か。いつの間に」
「俺は手癖が悪くてね。さっきみたいな罠をいくつも設置しておいたぜ。うっかり踏めば真っ二つだな。」
「それで勝ったつもりかい?こんな風に糸の上に乗ってしまえば、罠なんて怖くないさ。というか、衛兵はどこに行ったんだい?」
「あれ、いなくなってる。」
「クヒヒ、隙あり!」
「それは汚い!」
「汚いもクソもないさ。殺し合いだからね。クヒヒ」
「それもそうだな。あんまり使いたくなかったが、本気を出してやる。うっかり死んだからって恨むなよ。」
「それはこっちのセリフだよ。クヒヒ」
「いくぞ、炎剣«炎獄の火柱»」
「細切れになれ!操糸術«収縮する鳥籠»」
炎の魔剣と鋼鉄をも切り裂く糸がぶつかり合った。
魔力で強化されているとしても糸が炎に耐えられることはなく、あっけなく燃え尽きた。
「降参しろ、お前が仕掛けた糸も全部燃やし尽くした。ここから逆転は不可能だ。」
「クヒヒヒ、やってみなければ分からないんじゃないかな?ボクは生きている限り君の命を狙う。蛇は執念深いからね。クヒヒヒヒヒ」
「お前がやってきたことはキチンと裁かれなければならない。だから、俺はお前を殺さない。」
「甘い、甘いよ。そんなことじゃ、また君の大切な人を無くすよ。その時の君の顔が楽しみだよ。クヒヒヒ」
「そんなことはさせない。俺の仲間は強いから。」
「さっき、君は糸を燃やしたと言ったね。でも、地面の中は確認したかい?」
「何!?」
地面から大量の糸が現れ、カイトに襲いかかってきた。
「クソが!!」
「クヒヒヒヒヒ、殺さないからこうなるんだよ。じゃあね、また遊ぼう。」
「おい!絶対に逃がさないぞ!」
「そうね、逃がさないわ。」
ズドンと衝撃音が響き渡ったと思うと、ランメルの胸に穴が相手いた。
「サキ!」
「クヒヒ、これは…やらかしたなぁ」
サキはランメルの顔に手をかざすと、
「さよなら、オバサン」
手から魔法を放ち、顔を跡形もなく消し飛ばした。
「サキ、なんでここに…」
「アンタ、変なところで抜けてる所があるから逃がしちゃうかもと思ってね。そしたらホントに逃がしそうになってたしさ。」
「殺す必要はあったのか?」
「あったわよ。アイツは武器が無くても十分強いわ。並の兵士じゃ、簡単に逃げられる。だから、殺さなくちゃいけなかったの。」
「俺は、お前が復讐のためにやったように見えたぞ。」
「それはアンタの主観でしょ。それよりも、さっきの衛兵が起きちゃうわ。死体を処理して帰るわよ。」
「突然いなくなったのはお前の仕業だったのかよ。」