196話 どうして
「恨みは無いけど、殺しちゃうね。クヒ」
「こっちには大アリなんだよ。クズ野郎が!」
カイトが短剣で斬り掛かると、目に見えない何かに阻まれた。
「なんだ?」
嫌な予感がして、飛び退くと風切り音が聞こえた。
「これは、迂闊に動けないな。」
何かは分からないが、それが自分の周りを囲んでいることは理解できた。
「なんで避けられるかな。見えてないはずなのに。勘がいいガキは嫌いだよ。」
「鋼錬かよ。」
『変なところにツッコんでる場合じゃないでしょ!?』
何かが魔力感知に引っ掛かりはするのだが、それが何かは分からない。
「めんどくさいヤツだな。さっさとかかって来いよ。」
「そんなに死にたいならお望み通りやってあげるよ。」
「斬り払え!白銀流«裂斬»!分かったぞ、お前の手品。糸だったんだな。」
「よく分かったね。何をされたのか分からずに死んでいくバカばっかりだったんだけど、糸だって見破ったのは君だけだよ。クヒヒヒ」
「タネが割れちまえば怖くない。白銀流«刹那»」
「そうだと思うよね?」
『カイト!避けて!』
「操糸術«穿之牙»」
サキの声に反応して技を中断し、横に転がるように避けると、今までいた場所に大きな切れ目があった。
「やるねえ。見えないはずなのに、これだけ避ける人は初めてだよ。でも、チェックメイトだ。クヒヒ」
「何?…カハ、なんで血を…」
「クヒヒ、まだ気づいてないの?おマヌケさんだね。」
『毒よ!その建物の間に毒が溜まってるのよ!』
「毒だと?でも、アイツは何にもなってないぞ。」
『耐性があるんでしょ!血を吐いてるんだから、屋根の上にでも飛び乗りなさい。毒は高いところまでは行かないみたいだし。』
「分かった。」
カイトが屋根の上に避難すると、
「あれ?逃げるのかい?」
「逃げるわけねえだろ。休憩だよ、休憩。」
「休憩ねえ、そんなことさせるワケないでしょ?」
「なあ、なんでこんな事をするんだ?」
「冥土の土産に教えてあげるよ。楽しいのさ、家族が壊れていく様が、病気の家族を助けるのか、それとも病気じゃない家族を助けるのか、そんな苦渋の選択をしている様を見るのは最高なんだ。ボクはボクを不幸にしたこの世界に不幸をばら蒔く。その時が最も幸福を感じる時間だから。」
「薄っぺらいな。」
「なに?」
「薄っぺらいって言ったんだよ。自分だけが不幸だなんて決めつけんじゃねえよ!お前よりも不幸なヤツはたくさんいる!それでも、懸命に生きようとしてるんだろうが!それをどうして邪魔できるって言うんだ…」
「それがボクだからさ。おしゃべりは終わりだ。そろそろ死んでくれ。」
「ああ、俺も覚悟を決めた。お前を野放しにはできない。」