189話 決勝戦
「あっという間に決勝戦になったね。」
「研究室の数が少ないからしょうがないよ。」
「2回戦でメイと戦った人は可哀想だったわね。」
「油断せずに本気の攻撃をしたら、無傷どころかその攻撃を返されてたからね。」
「まさに瞬殺だったわね。」
「それにしても、精霊術ってここまでいけるのか。」
「先生をそういうこと言うのはどうかと思うわ。」
「実は精霊術ってダメなんじゃないかって少し思ってたんだよ。汎用性に欠けるし、修得も難しいし。」
「確かに、メイちゃんがいなかったら今でも暴発させまくってたと思うな。」
「うん、僕は研究者であって教官ではないからね。教授なんて大層な職に就いているが、何を教えればいいのか分からないんだよ。」
「そうだったの。あ、決勝戦始まるみたいよ。」
「頑張ってくれよ。メイくん。」
第2試合で、対戦相手の戦いを見ていたが、かなり実戦の経験があるように見えた。
ニコラスのように、冒険者を兼業にしているのだろうか。
「精霊術がここまでやるとは思っていませんでした。お互い全力を尽くしましょう。」
「はい、いい試合にしましょう。」
「試合…開始!」
試合は開幕から、弾幕を張った物量でのぶつかり合いだった。
ほとんどの魔弾はぶつかり合って消滅しているが、時々弾幕をする抜けてくる魔弾を弾き飛ばしたりしながら、前後左右に魔弾を操作し、弱い場所を探る。
それは相手も同じで、メイの認識の穴を探して色々な攻撃をしてくる。
両者はまったく同じ瞬間に弾幕を張ることをやめた。
次の攻撃への準備をする時間を相手の目を見て予測したのだ。
相手はかなりの実戦経験があり、油断できないと2人の考えは完全に一致していた。
「メイちゃんは精霊術っていう縛りがあるから苦戦してるんだよね?」
「殺していいなら瞬殺できるけど、それがダメだから、もしかしたら苦戦するかもね。」
「次で奥の手を使うから決着は近いと思うよ。」
「精霊纏」
「魔装展開」
メイは精霊纏を発動させ、相手は魔装と呼ばれる魔力の鎧を発動させた。
その魔装は黒いモヤを纏っており、見るからに危険そうだった。
「なぜですか。なぜそんな命を削るような物を使うんですか!」
「優勝できるなら、命など捨ててもいい!俺は覚悟を決めた!」
「それは覚悟とは言わない。あなたのはただの自暴自棄です。」
「うるさい、うるさい!必ず勝たなければいけない!そうしなければ…」
「いいでしょう、目を覚まさせてあげます。」
精霊術と闇によって強化された魔弾が入り乱れる。
「リープアーツ:爆」
「そんな物は効かん!マナスペース」
相手の周りで爆発が起きるがある一定の場所から内部には入らない。
完璧に対応できている証拠だ。
「あなたは才能もあり、優秀なのでしょうね。
精霊の力:氷結」
「ク、クソ!」
「マナスペースが維持できていませんよ。」
今度は至近距離で爆発が発生し、吹き飛ばされた。
「なぜだ!俺は強くなっているはずだ!」
「いいえ。魔法の威力は上がっていますが、繊細なコントロールができなくなっています。それでは私には勝てない。」
「これならどうだ!」
メイの背後に仕掛けた遅延性の魔法を発動させるが、
「バレバレです。」
起死回生の一撃だったが、簡単に対処されてしまった。
「ハハハ、負けだ。これは勝てない。」
「その魔装を早く解いてください。死んでしまいます。」
「分かった。あーあ、こんな反則まがいのことまでやったのに、勝てないとはね。君みたいな子がいたら自信を無くしてしまうよ。」
「あなたはまだ若い、そこまで強さを追い求める必要ではないのでは?」
「今じゃないとダメなんだよ。」
メイは優勝したが、何だか引っ掛かりのある最後だった。