168話 サバ読み
「久しぶりじゃのう。」
「あれから一月以上たってるんですけど、遅くないですか?あれからどうなったか聞きたかったのに。」
「すまんのう。政治の世界はややこしいんじゃ。」
「政治?」
「教会は正式に帝国に抗議したんじゃ。魔族が暗躍していると前々から警告しているのに戦争をするとは何事かとな。」
「それで?」
「返答も遅いし、その後の協議も長引いて結局こんなに時間が経ってしまったんじゃ。」
「協議の内容は?」
「帝国と王国の講和会議で教会はその立会だったんじゃが、戦争の結果やたいした大義名分の無い帝国を王国の大使が責め立てておったわ。」
「なるほど。占領してしまえば自国領になると思っていたのに、それが失敗してしまって目論見が外れたといったところだったんでしょうね。」
「うむ、帝国側は今回の戦争の首謀者を軟禁すると言っておったぞ。」
「その首謀者が目下の最大の敵かと思っていたんですが、軟禁されるなら対処する必要は無さそうですね。」
「まあ、そうじゃな。後は、そうじゃ。これを伝えておこうと思っておったんじゃ。」
「何ですか?」
「悪魔のことじゃ。やはり、召喚された悪魔は一体だけのようじゃ。」
「なるほど。あの力をたった一体が1万の軍に与えていたということですか。」
「そうじゃ。悪魔がその気になれば今すぐにでも帝国を滅ぼすことができるじゃろう。何故動かいないのかは分からんが。」
「上手く契約で縛っているのでしょう。悪魔は強大な力故に召喚の際に強力な契約を結ばされますからね。」
「なるほどのう。それに他の理由を付け足すとすれば、ソナタという自身を滅ぼしうる存在を知ったからというのもあるじゃろうな。」
「そうですね。」
「まあ、相手がどんな力を持っていたとしても、ソナタが負けることは無いと思うがの。」
「過信は禁物ですよ。」
「何言っておるんじゃ。カスっただけで存在そのものを消滅させる魔法が使えるくせに。そんなものをワシに使われたらと思うと、恐ろしくて夜しか寝れんわい。」
「寝れてるじゃないですか。」
「何を言っておる!ワシは昼寝が大好きだったのに眠れなくなったのだぞ!」
「それは歳の影響では?」
「そうそう、歳をとると朝早くに目が覚めてのう。って違うわい!この一万歳の若者に向かって何を言うんじゃ!」
「サバ読みすぎです。少なくともこの世界ができてから数百億年たってますよね。しかも一万歳は若者とは言いません。」
「ぐぬぬ、この世界の成立時期すら知っておるとは侮れんな。」
「さて、その数百億年の間に何が起こったか、教えてもらえませんか。」
「何が起こったって、人間が繁殖し、生活圏を拡げていっただけじゃが?」
「数百億年かけてこの程度ですか?もしかして…」
「あ!今日はもう限界みたいじゃな!では、またのう!」
「肝心なことは言わないんですね。」
ピューと逃げるように夢から離れていく老人を疑念の目で見つめるメイであった。