166話 師匠ー!
「師匠ー!助けてくれ!」
「何ですか、いきなり。」
「このままじゃ俺!…補習を受けないといけなくなっちまう!」
「そうですか、頑張ってください。」
「お願いだ師匠!俺に勉強を教えてくれ!」
「フラスとかクラスの友人とかいるじゃないですか。」
「フラスは一位をとるために俺たちの相手なんかしてられないって言うし、クラスの連中は俺とどっこいどっこいなんだ!」
「類は友を呼ぶですか。友人と補習を受けるというのも思い出の一つですよ。」
「見捨てないで!俺次の休みにギルドの昇級試験を受ける予定なんだ!補習が入ったらそれもできなくなっちまうだよ!うわああーん!」
「別に昇級試験は一度だけではないんですから諦めればいいのでは?」
「ハッキリ言って今のランクの依頼は簡単すぎてつまらないんだよ。もうちょっと張り合いが欲しい。」
「知りませんよ。私だって自分の勉強で忙しいんです。」
「頼むよ師匠ー!」
スカートを掴み縋り付くクレソンの姿を見た人たちは、内心でこう思ったことだろう。
『あんな人間にはなりたくない。』と
「鬱陶しい。」
「あふん!」
縋り付くクレソンを蹴っ飛ばして帰ろうとすると、アリュールが助け舟を出した。
「まあまあメイちゃん。今度皆で勉強会するんだし、その時に教えてあげればいいんじゃないかな?」
「ダメです。一度でも優しくすると味を占めるので。」
「お願いだよ師匠!今度メシ奢るからさ。」
「クレソンの稼ぎの数倍はあるご飯を毎日食べているのですが。」
「そうだった!ダメか…」
「まあ、最近美味しいスイーツ屋ができたらしいですし、それで手を打ってあげてもいいですよ。」
「え、あそこめっちゃ高い…」
「何か言いたいことでも?」
「いえ!買わせていただきます!」
「あのお店って貴族御用達だからすごい高いのに…」
「フッ、これで俺は一日たりとも休むことができなくなったぜ。」
「あ、4人分お願いしますね。」
「4人分?」
「私たちとサキさんの分です。カイトは甘い物好きじゃないって言ってましたし、いらないでしょう。」
「oh my god、借金か?この歳で借金しないといけないのか!?」
「諦めてもいいんですよ。」
「だが、俺は引けない!もっと割のいい依頼を片っぱしから受ければ何とかなるはずだ!」
「何でそこまで?」
「何か理由がありそうですね。」
「いや、ホントに何もないって。」
「話しなさい。」
「…実は、結構無理してこの学園に来ててさ。その代わり家の金は払わないって言われてたんだ。金がもったいないってさ。んで、貯めてあった金も少なくなってるから、ここらでたくさん稼げるようになろうと思ってさ。」
「そういうことなら言ってくれればよかったのに。」
「なんて言うか、家族の問題だから巻き込みたくなかったというか…」
「相談くらいして欲しかったです。私はそんなに頼りありませんか?」
「そうじゃない。そうじゃないけど。師匠に頼るのはなんか違う気がしたんだ。」
「勉強は頼るのに?」
「勉強は俺の手に負えないからさ。」
「分かりました。赤点をとらないどころか100位以内に入れるくらいまでミッチリやってあげましょう。」
「い、いや、それはちょっと。」
「そうと決まれば何ができて何ができないのか知らなければいけませんね。」
「気合いの入った師匠は何をするか分からないから怖いんだよな。どうしよう?」
「うーん、頑張ってね。」
「思考を放棄しやがったな…」