165話 訓練の成果
「今日は気分転換に冒険者ギルドに行きましょう。」
「え、何で急に?」
「ニコラス先生に「ここは研究室であって休憩所じゃない!」って怒られたんですよ。」
「そうなんだ。」
「後は、ちょっと厳しくやりすぎた感があるので…」
「あ、アリュール、大丈夫?」
「……」
「目が死んでて反応がないわ。」
「屍のようだってやつだな師匠。」
「何でクレソンがいるんだっけ?」
「師匠に呼ばれたんだよ。」
「私たち最初に雑用の依頼をこなした以外は何もしていないので、とりあえずの助っ人として呼んでみました。」
「そうなの。頼りにしてるわ。」
「任しとけ!ってそこのヤツどうしたんだ?また、師匠がなんかしたのか?」
「そうなの、またなの。」
「またって何ですか、またって。」
「まあまあ、早く行こうぜ。」
「ここに来るのも久しぶりですね。」
「適当なものを選ぼう。これなんかどうだ?」
「ボアの討伐?ボアってイノシシだよね。」
「魔物だけどな。そこまで強くないけど、気配に敏感でな、すぐに逃げるんだ。罠とか弓で狩るのがセオリーだな。」
「近づく前に逃げちゃうってことなのね。」
「魔法はダメなの?」
「魔法はピンポイントで当てられないからダメなんだって。」
「解体した肉だけが欲しいみたいなので、荷物も少なくなるのでいいですね。これにしましょうか。」
「じゃ、早速行こうか。」
「あれ?準備は?」
「俺たちがそんな準備させてもらえると思ってるのか?」
「え、でも荷物って。」
「持って帰る時の荷物に決まってるだろ。」
「よく分かっているようですね。」
「街から十分くらいの森だけど結構鬱蒼としてるね。」
「いた。じゃあ、見本を見せるぜ。」
クレソンは高速で近づき、気づかれる前に後ろ足を切り落とした。
「ゴホ、ゴホ。ちょっと、後ろも気にしてよ!」
クレソンが踏み込んだ影響で、土煙が舞い、後ろにいたアリュールにかかっていた。
「ごめんて。まあ、俺じゃあ一瞬で首を切り落とせないから、こうやって逃げられないようにするんだ。」
「全然真似できないけど。」
「師匠なら、やり方分かったと思うから、やってみてくれよ。」
「じゃあ、あっちのヤツを倒します。」
「もうちょっと近づこうか。ここじゃ見えないから。」
メイは抜刀の構えをとると、目にも止まらぬ速さで駆け抜けた。
「いや、速すぎて見えないんだけど。」
「着地に使った木が折れてるし。」
「断面綺麗すぎでしょ。」
「首を一刀両断するなんてさすがメイね。」
「いえ、これくらい軽いものですよ。」
「次は私たちね。魔法で脳天を狙うわよ。」
「えっと、レイ…いや、ここは森だしルゥかな。ルゥ頼んだよ。」
『ええ、任せなさい。』
「火魔法«火線»」
カレンは脳天を狙い熱線を発射した。
その一撃は見事眉間にヒットし、ボアは力尽きた。
「やったわ。一撃で倒したわ。」
「やりましたね。後は後ろに突き抜けないように威力を調整しましょう。」
「が、頑張るわ。」
「次は私の番だね。ルゥ!『凍れ』」
「…これどうやって解体するんですか?」
「表面だけじゃなくて血液まで凍ってるぞ。これは、食えないな。」
「凍ってるならいけるんじゃないかな?」
「ただ凍ってるだけならな。急激に凍ったせいで内側から破裂してるんだよ!おい、目を背けるな。俺や師匠の目を見てもう一回言い訳してみろ。」
「だって難しいんだもん!それに、凍らせたのはルゥだから私悪くないよ!」
『そんな!?』
「精霊の罪は契約者の罪だ。分かったならそこに治れ!」
「なんで私ばっかりこうなるの!?」
その後、依頼は問題なく完了したが、燃え尽きたようなアリュールの姿を直視しようとする者はギルドにはいなかった。