153話 父娘の会話
「ここは、酷いわね。」
そこは重傷者用のテントだったが、薬を使い包帯を巻いただけの処置しかしていないため、止血ができず、血の匂いが充満していた。
「我々ではこれ以上の処置が出来ないんだ。どうか、痛みをとるだけでもやって欲しいんだ。」
「分かりました。」
ここは慎重にいくために全員まとめてやるのではなく、一人ずつ治していくとしよう。
怪我人のほとんどは骨折や、剣による切傷なのでパパっと治していく。
問題は最後の三人だ。
目を潰されていたり、腕の欠損だったり、感染症を引き起こしていたりと、とにかく酷い状況だ。
まずは目を失った人からだ。
一言言って目を開く、眼球は潰れているが、まだ中にあるようだ。
これなら治すことができる。
回復術«再生»
「目が、目が見えるぞ!ありがとう、ありがとう!」
「はい。お大事にしてください。」
さて、次なんだが。
私にはどうすることもできないな。
「ごめんなさい。失った部位があればくっつけることはできますが、一から作り直すことはできないんです。」
「ということは完全に失った俺はもう治らないのか。」
「誰かがあなたの腕を拾っていれば治せたのですが。」
「そうか…いや、君が気に病むことではない。運が悪かったと思うよ。」
「ごめんなさい。」
次
感染症もできることは少ないんだよな。
傷口が膿んでいるから消毒して、体力を回復するくらいしかやりようがない。
「この方も私にはどうすることもできません。聖術ではケガは治せても病は治せないんです。」
「じゃあ俺はこのまま死ぬのか。」
「いえ、栄養のある物をたくさん食べて、体力を付ければ、死ぬことはありません。」
「分かった。ありがとう。」
「本当にありがとう!あの三人は死ぬ運命なんだと思っていたが、君のおかげで皆生きている。命の恩人だ!」
「そんなことはありません。私はできることをしたまでです。ただ、あの人の病気は他人に伝染る可能性があるため、あまり人を近づけないでください。」
「伝染病だって言ってたな。分かった。俺たちも気をつける。」
「それでは私はこれで。」
「本当にありがとう!」
「メイはすごいな。俺には絶対に出来なかったことだよ。」
「お父さんは懸命にあの人たちの看病をしてたんでしょ?それは優劣をつけることじゃないよ。」
「俺は本当にメイが12歳なのか疑問に思うときがあるんだ。」
「茶化さないでよ。」
「父さんはもう行かないといけない。何でこんな所にいるのかは知らないが、怪我をしないように気をつけるんだぞ。と言ってもメイなら簡単に治せるか。」
「うん。多分、すぐに終わると思うから。帰ったらお母さんによろしくね。」
「ちゃんと帰ってこいよ。お母さんも俺も寂しいんだからな。」
「うん。次の休みには帰るよ。」
「じゃあな。」
こうしてお父さんとは別れた。