139話 劣等感
あの日からアリュールは私を避けるようになった。
研究室にも顔を出さなくなり、話す機会がなくなってしまった。
「ダニエル先生から聞いたけど、君たちケンカしてるんだって?早く仲直りしたまえ。このままではダンジョンに行けなくなるよ。」
「アリュールに話しかけようとしても逃げられちゃうんですよ。」
「何かしたのか?」
「一回怒鳴りましたけど。」
「本当に一回かい?実は何度も怒鳴ってたり。」
「しませんよ、そんなこと。大声出すのは疲れますから。」
「まあ、いいや。逃げられるなら一度捕まえてみるのもありだと思うけどね。」
「捕まえるですか。」
「もちろん乱暴ダメだよ。捕まえた後はゆっくり話をすればいい。」
「そうですね。今のままだと困るのも確かですし、やってみます。」
「アリュール。」
声をかけるとクルっと向きを変え、離れようとする。
やっぱり避けるなぁ。
ちょっとめんどうに感じてきたし、ここは助言通り実力行使でいくか。
「岩よ」
私がそう唱えた瞬間、アリュールの周りを岩が取り囲んだ。
「何これ!?…メイちゃんの仕業だね。」
「逃げるのが悪いんですよ。」
「に、逃げてなんかないもん。」
「さっき私のこと避けましたよね。」
「さ、避けてなんかないし。それで、何か用。」
「あの時は大声を出してごめんなさい。だから前のように…」
「あの時の試合を見て思ったの。私、メイちゃんといていいのかなって。だって私は何もできない。友達なのに何もしてあげられない。」
「何かしてほしくて友達になったわけでは…」
「これはただの自己満足だって分かってるでも、私が納得できない。これをといて。」
「…」
「早くして…」
私は何も言えず、去っていくアリュールの背中を見ていることしかできなかった。
やっぱり、前世の自分と何も変わっていなのだと痛感した。
人の気持ちが分からない。
自分の気持ちが分からない。
殺し合いばかりしていた俺には何もかもが分からない。
「メイ。」
「…カレン。」
「メイがそんな顔してるなんて初めて見たわ。」
「どんな顔ですか。」
「そうね。もう少しで泣きそうな顔かしら。」
「そんな顔してるんですか。ハハハ、情けないなぁ。」
「そうね。情けないわ。私の親友でしょ、もっとシャンとしなさい。心配しないで、私がアリュールと話して来るから。」
「大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ。私、アリュールの気持ちが分かるもの。」
「?」
「メイも自分よりスゴい人と友達になれば分かるわ。」
「…そう、ですか。私よりスゴい人なんているんですかね。」
「言うようになったじゃない。それくらい小生意気な方がメイらしいわ。」