108話 心の内
予定が忙しくなってきたので数日お休みをいただきます。
「サキ!」
「カイト、遅かったわね。」
「なんでここにアントンが?護衛は?」
「殺した。」
「手を出すなってあれ程言ったのに!」
「見つかっちゃったんだからしょうがないじゃない。」
「それでも!心配だ。」
「私はアンタに心配されるほど弱くはないわ。それで?こいつどうするの?」
「…はぁ。組織の秘密でも喋ってもらうか。」
「どうしてさっき手を出さなかったの?あそこで殺れていれば護衛と戦うなんてことにはならなかったのに。」
「いや…それは。」
「分かってるわ。殺せないんでしょ?私が代わりにやってあげるわよ。」
「そんなことさせる訳ないだろう!」
「じゃあできるの?覚悟も無いのにできるとか言わないでね。」
「…」
「こんなことやってるんだから、覚悟くらい決めてるわよ。」
「俺は…」
「あんたは今のままでいいのよ。この命の価値が低い世界で誰も殺さなかった、それはすごいことだと思うの。これからもそうして欲しいと私は思ってる。」
「それでもそんな卑怯なことできない。」
「アンタは私の希望になのよ。妹を安心させるのもお兄ちゃんの仕事でしょ?」
そう言って笑ったサキの顔は見蕩れてしまうほどに美しいと感じた。
あの後アントンはサキが首をはねて殺した。
今までどこか他人事のように感じていた。
俺が持っている短剣は人殺しのための道具だ、なぜこんなことにならないとおもっていたのだろうか。
「サキのためにこれからも人を殺すことはしない。でも、サキや他の皆が危機に陥った時は刃を振るう。そのための覚悟くらい決めないでどうする。俺は男でお兄ちゃんだろ。」
立ち上がった俺は自分の頬を叩き、気合いを入れた。
俺は今の弱い自分を許容する。ここから強くなっていく。皆を守るために、母さんのように失ったりしないために。
「ようやく覚悟を決めたみたいね。」
庭に座っていたカイトを屋敷の二階から見ていた私はそう呟く。
カイトはここ数日表情が曇っていた。
やはり、暗殺ということが気にかかっていたのだろう。
「アイツはあんなバカな顔晒してる方がいいのよ。」
私も覚悟を決め直さないと。
人を切った感触は今も手に残っている。
正直人なんて斬りたくない。
でも、私たちの復讐のためには誰がしないといけない。
そのためにはカイトには頑張ってもらわないといけない。
こんなところで辞められれば困るのだ。
そのためなら、私が壊れることも厭わない。
「私って最低ね。アイツの情を利用してるんだから。もし、私が壊れてしまったら、アンタが止めるのよ。カイト。」
そう呟き、次の計画のための準備に入った。