107話 奥の手
最近嘘ついてばっかりの気がする。
本当に申し訳ないです。
「「次で終わりだ。」」
同時に呟いた言葉は、恐く相手に聞こえることはなかっただろう。
呟いた瞬間、全力で敵を殺すために動いたからだ。
ぶつかり合った瞬間、カイトは吹き飛ばされていた。
「な、なんだこれは…」
そう言ったのは魔族のほうだった。
「簡単なことだ。短剣に麻痺毒を塗っておいたんだよ。」
「麻痺だと?卑怯なことを!」
「お前は俺の攻撃を弾いたが別に本気だった訳じゃない。もう少し力を入れれば斬れるんだよ。そしてお前は油断し攻撃を避けない。だから、俺の勝ちは決まってたんだよ。」
「クソ!動けよ!」
魔族は懸命に身体を動かそうとしていたが、ピクリとも動かなかった。
「この薬を使わないといけないとは思わなかったぜ。」
そう言うと手足の腱を切り、動けなくした。
サキ視点
私は逃げていくアントンと護衛を追跡しているが、護衛は誰かを探しているようだった。
「俺たちをつけているのは分かっているぞ!出てこい!」
バレたか。
でも、場所までは分かってないみたいね。
「だ、誰かいるのか?おい、答えろ。」
「お前は黙っていろ。」
出ていくべきかしら?
「雷魔法«麻痺針»」
逃げられないようにアントンを気絶させる。
「そこか!」
護衛は魔法が放たれた地点を逆算して攻撃したが、既に場所を変えていたので攻撃が当たることはなかった。
「どこにいる、卑怯者が!」
叫んでいる後ろから魔法を打ちこんでいく。
「グ!クソが!」
数発当たったが、あまり効果はないようで、元気に悔しがっている。
(魔道具を使わないと無理かもしれないわね。)
「こうなれば最後の手段だ。高位術式«破壊衝撃»」
「何よあれ!」
巨大な魔法陣が現れ、衝撃波によって周りを破壊し、吹き飛ばしていく。
「キャア!」
私も例外ではなく、直撃は免れたものの、吹き飛ばされ姿を晒してしまった。
「お前…女か?」
「おい、女以外の何に見えるんだ?ん?言ってみろよ。ぶち殺すぞ。」
ドスの効いた声で問いかける。
「ヒィ!すいません!はっ、反射で謝ってしまった。」
「まぁいい。どの道お前は殺す。罪状が一つ増えただけだ。」
「さっきは気圧されてしまったが、もうそんなことは無い。やれるものならやってみろ。」
「付与魔法«付与:強酸»」
私は護身用にと渡された片手剣に魔法を付与する。
「ハア!」
「隙だらけだぞ!ド素人が!」
そんなこととっくの昔に分かっている。私は武術に全くと言っていいほど、才能が無かった。
「何!消えただと!」
「消えてなんかないわ。」
でも、魔力で無理矢理強化すれば、圧倒的な力があれば、何の問題も無い。
「グアア!」
強化された一撃は防御など完全に無かったかのように、敵の身体を切り裂いた。
メイのように綺麗でもなく、カイトのように技巧が凝らされた訳でもない切り口はグチャグチャで、潰したかのようなものだった。
それを強酸が溶かしていく様は、かなり醜悪だ。
「運動は苦手なのに。さて、こいつはどうしようかしら?」
サキはいまだに気絶したままのアントンを見やり、どうすべきか考えだした。
カイトとサキは小細工を使って戦うタイプのキャラです。