第1話 驚異の戦果
趣味前回の小説です。リアル路線のロボットアニメ好きには刺さるかもです。あと、厨二秒の方にももしかしたら笑
戦艦のビーム砲と宇宙戦闘用人型兵器、TAの放つ銃弾が黒い宇宙のあちこちを飛び回る。宇宙を染め上げる朱色の爆発は宇宙戦闘の慣れないスピード感も相まって軍人たちを恐怖させるには十分だった。
「奈々、そっちの戦艦は任せてくれ。お前はディガーの相手をしろ!」
「了解」
翔のかつての学友、天内奈々は彼の指示に従い高振動ブレードでディガーと呼ばれる金星軍の量産機を次々と切り裂いた。奈々はどちらかというと近接での肉弾戦が得意であるため、戦艦を相手取るよりもTAを相手取る方が得意だ。彼女は戦果を挙げたことで専用機まで手配されているため形式上は苦手であっても戦艦を堕とすくらいの成果を上げるべきだという周囲の考えが彼女を縛っていたが、翔はそんな彼女が得意な方法で戦えるように上官からの指示という形式で命令した。
「宝井中尉、弾薬が不足しているようでしたら私のをお使いください!」
「ああ、すまないな」
翔は士官学校上がりの軍人であるにもかかわらず優秀な操縦力と戦闘能力を有しているため現場兵士のあこがれの的だ。だから、自らの戦果を犠牲にしてまでも彼に貢献しようという兵士も存在する。翔は彼から弾薬を受け取ると戦艦のエンジン部分狙い弾薬の消費を最小限に抑える。
「宝井 翔、前進して敵戦艦を狙います。補給物資のパッケージを輸送してください」
「うむ、了解」
翔は救援物資要請の承諾を聞く前に前方へと進んでいた。火星軍の一般兵に与えられる量産機、グロウの移動速度では遮蔽物を利用しなければすぐに蜂の巣になるが、彼の駆るグロウ改は通常のグロウの4倍で移動するため射線内に捉えることは容易ではない。そのことを理解しているため翔は直線的に前進し敵戦艦を狙い撃つ。彼にのみ支給されている特別製の高威力ショットガンライフルは正確に狙うことができればわずか2発の射撃で戦艦を大破させる。この高威力ショットガンライフルは戦艦の構造を熟知している彼にふさわしい武器といえる。
「私は地球軍の神代 彰大尉だ!金星、火星軍の両軍に告ぐ!今すぐ戦争を中止して和平条約を結べ!断るのなら地球軍の関与も否定はできない!」
地球軍の大尉、神代 彰が強い語気で警告する。金星と火星は地球を挟む位置に存在するため宇宙に物資を取りに来た地球の探査員が彼らの戦闘に巻き込まれるリスクがある。そのため地球政府が両星の戦争を鎮静化したいというのは当然の思考である。また、戦争によって両星が一つの政府の管理下に置かれた場合、地球は挟まれる形となる。現状、宇宙間での政治力がトップの地球の基盤を盤石にするためにも両星の軍事的決着はうやむやにしたいというのが地球政府の本音だ。
「神代大臣の息子が軍人をやっているなんて驚いたよ!」
翔は挑発的に語りかける。驚いた《《驚いた》》というのも彰はもともと地球政府の中でも発言力の大きい政治家の息子であり、彼もまた政治家になると考えられていたからだ。
「父のことは関係ない!俺が軍人をやろうとかまわないだろ!」
「ふん、口調が崩れているぞ坊ちゃん」
彰は翔の挑発に乗ってしまう。権力者の息子ということもあり、彼は自分自身を見てもらえることが少なかった。そのため、父を引き合いに出しての挑発には弱い。また、温室育ちの彼にとっては挑発された経験などせいぜい数回ほどしかない。このような人間を相手どることは翔にとってなんてないことだ。
「さて、最強の地球軍とやらの戦力を見せてもらおうか」
翔は彰のTAに蹴りを入れる。彰は権力者の息子ゆえに出世は早かったが実戦経験に乏しいためTA同士の近接戦を上手く立ち回ることができない。
「くっ!この攻撃は地球軍への反逆とみなすぞ!」
「ここで君が死んだ場合、誰がそれを証明する?」
彰の脅し文句に翔はまったく屈しない。しかし、ここで彰を殺したとしても火星軍は地球軍に反逆したものとみなされることなど翔は重々承知だ。しかし、翔は何か異常な執念でもあるかのように執拗に彰を攻撃する。
「これ以上攻撃を続けるというのならここでここで貴様を制裁する!」
彰と行動を共にしていた地球軍の量産機、ライムが翔に実践投入されて間もない電子力銃を向ける。
「雑魚は引っ込んでろ!」
翔は彰以外には興味がないといった様子で流れ作業的にライムの手部を蹴り銃を離させると対TA用連射銃でライムを射撃する。しかし、ライムの装甲は翔の想定よりもずっと固く、簡単には撃破できない。
「やはり資源力がダンチなのか・・・!」
「貴様ァ!」
ライムはグロウ改に攻撃を仕掛ける。それを難なくかわすと翔はバックパックに収納されていた高振動ブレードを取り出し切りかかる。ライムの装甲の頑丈さゆえに普段よりも時間がかかったが今度は撃破に成功した。その隙に彰は専用に配備されたTA、ライデンを前進させグロウ改にタックルを仕掛ける。
「そんな直線的な攻撃では・・・返り討ちにしてやる!」
翔は高振動ブレードを横に構え、ライデンを切り裂く体勢に入った。
「ライデンは伊達じゃない!」
高振動ブレードではライデンを切り裂くことはできず、グロウ改は大きく押し飛ばされる。
「火星の軍人よ!今すぐ攻撃を中止しろ!さもなくば・・・」
「聞こえないね!私はここで貴様を殺す!」
翔は異常な敵意を彰に向ける。もともと対戦艦用の高威力ショットガンライフルをライデンめがけて発射した。爆炎が2機を包んだがライデンに傷一つつけることすらできない。
「そっちがその気なら!」
彰はグロウ改に新型銃を発射する。銃口からは赤色の光線が発射された。翔はかろうじて身を躱したがその弾速と威力に驚いた。なんと、被弾したTAを一撃で撃破したのだ!しかも、被弾したのは中距離からグロウ改に狙いを定めていた敵TAだ。着弾までのタイムラグを考慮すると余裕で避けられる位置にいたはずなのだ。彼は一時撤退するしかないと考えグロウ改を後退させる。逃避の途中にも光線がグロウの体をかすめ続け、彼に恐怖を植え付けた。
一時的に戦闘を中止し翔は友人たちと戦艦内の各自の部屋に戻る。
「戦艦を8隻も撃墜したらしいな。上官がほめていたぞ翔」
奈々は翔の戦果を間接的にほめたたえる。素直に感情を表現することが不得意な彼女にしては直接的すぎるとも言える称賛だ。それは翔も知っていたがあまり嬉しそうにはしなかった。
「どうした?この私に褒められるのがうれしくないのか?」
「いや、ただ今回の戦線で妙な敵を発見してな。そいつの撃破に成功しなかったから少し今回の戦績には不満なんだよ」
翔は言葉をぼかしつつ素直に喜べない理由を説明した。プライドの高い彼は決して自分が逃げ出したとは口にしなかったがそれを察して奈々は次は勝てると慰める。彼女に不甲斐ない姿を察されてからかサングラスで隠された翔の眼には復讐の闘志がギラついていた。
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