なんでドラゴンと出会っちゃう訳?!
「どうして、こうなった・・・・・」
深い深い森の奥、今、アリサの目の前には、瀕死のドラゴンがいる。アリサが知らぬ何かの理由により、深く怪我を負っているか、または、具合が悪いのか、そのどちらもなのかもしれない。とにかく、今、目の前には、ドラゴンが目をつぶったまま、虫の息で冷たい地面の上に横たわっている。
国の聖獣ともいわれる神聖なドラゴンだ。
そもそも、この国にはドラゴンなど、その辺にいる訳ではない。むしろ、希少な精霊のような扱いで、百年、いや、数千年に一匹、人の前に現れるかどうか、くらいの生き物である。
「なんでこんな所にドラゴンが……」
やるせなさげに、アリサは一人呟く。
ぐっと涙をこらえ、泣きそうになりながらも、アリサは己の不幸体質をつくづく嘆きたい思いで一心だった。
どういう訳か、アリサは今までの人生において、立ち寄る先々、行く場所で、なにかしらの不幸な事件に巻き込まれる。上級侍女から言いつけられて、厨房に食器を取りに行けば、たまたま、その日は床掃除の日だった。
両手いっぱいに抱えた食器を、つるりと滑った瞬間、派手に割ってしまったり、本を取りに行かされれば、図書室の本棚が何故か倒れてきて、本棚の下敷きになる始末。子供の頃から、そういう体質なのだ。
アリサは王宮で働く侍女である。マルグレータ子爵家の三番目の娘であるアリサは、貴族カースト最底辺を行く。その下級貴族の三女であるアリサは、王宮の中でもやはり下級侍女なのである。
しかし、そこは腐っても貴族子女であるから、最低限のレベルは確保しているのだが。
その日、アリサは女官長様の言いつけにより、森のキノコを採取にいかされていたのである。
王宮に上がって、まだ三ヶ月しか経っていないと言うのに、すでにみんなからはドジっ子認定されてしまった。他の人に比べれば、自分はただ運が少し悪いだけなのに。
結局、あまりにも粗相が多すぎるため、「アリサを外勤にだそう」という話の流れになった。
そういう訳で、今日のアリサは女官長様から言いつけられ、秋の木の実を採取しにきたのだ。
下級貴族の子女であるアリサは山奥の田舎育ちだ。森の中なら、なんでもこいのはずで、女官長様にも普段のドジを挽回しようと、森なら任せくださいと、必死にアピールした結果、やっと手にいれた森の中でのお仕事なのだ。
幾らなんでも森の中でドジっ子全開にはならないだろうと、名誉挽回を兼ねて、勇み足で森の中に入ってきたはずなのに、巡り巡った結果がこれだ。
しかし、アリサの不幸体質は、あっさりと彼女たちの思惑の上を行った。
アリサは普通の、正直な所、どちらかというと鈍くさい部類にはいる女の子だが、目の前の弱った動物(?)に対して、いささかの同情心を持たないほど、冷酷な娘ではない。
目の前でぐったりとしている動物(?)を見て見ぬふりをして、通り過ぎる訳にはいかないのだ。大きな森の中で、独りぼっちでドラゴンと遭遇。泣きたくなる気持ちを抑えながら、アリサはおそるおそるドラゴンに近寄った。
「あの……ドラゴンさん? お具合がよろしくなくて?」
体長15メートルはあろうかという巨大なドラゴンだったが、つんつんと、ドラゴンを指でつついてみるも、ドラゴンはほんの少しだけ身を捩じった。
「わたくし、どうして差し上げたらよろしいのかしら?」
どうしたらいいのか、全くわからない。できれば、このまま、目を開けて、元気よく空に飛び立ってくれないだろうか。
そうすれば、このまま木の実を沢山拾って、何事もなかったことにして、意気揚々と城に帰れるのだ。
もちろん、女官長様の前に籠一杯の木の実を差し出して、今までのドジをちゃらにしてもらうのだ。
だから、どうしても、このドラゴンには復活して、どこか知らないけど、おうちに帰ってもらいたいのだ。
「ねえ、ドラゴンさん、大丈夫?」
アリサが声をかけながらドラゴンをゆすると(ドラゴンは大きすぎて、全く動かなかったが)、その願いが通じたのか、ドラゴンが薄目を開いて、アリサを見た。
「ああ、よかった。ドラゴンさん、気が付かれたのね?」
ドラゴンの目は真っ赤なルビーのような色をしていた。そういえば、鱗が赤紫色をしていたので、これはどういう種類のドラゴンなのだろうと、アリサは思った。
そんなアリサに向かって、ドラゴンは弱弱しく口を開ける。実は、ドラゴンは最後の力を振り絞って、アリサを威嚇していたのだが、気が動転していたアリサはそんなことには全く気付いていない。
大きく開いた口からは鋭い牙が見えていたが、アリサは別の方向に解釈したのである。
「ああ、そっか。喉が渇いているのね? ちょっと待って」
水を飲ませれば、少し元気になるかもしれない。アリサは、持っていた水筒の蓋をあけて、勢いよくドラゴンの口に水を注いだ。
きっと、お水を飲んで、気持ちを落ち着かせたら、空へと飛んで行くだろう。
アリサが、水を飲ませた瞬間、竜ははっきりと、いやあな顔をした。例えるなら、風邪を引いた子供にシロップの薬を飲ませた瞬間のようだ。甘いイチゴのシロップだと思ったら、なんとも言えず苦い味が口の中に残る。
そんな顔に似てるな、とアリサがぼんやり思い出していると、竜が赤い顔をさらに真っ赤にさせて苦しみだしたのだ。
「え、ええっ?どうして? ドラゴンさん、どうしたの?」
身をじたばたを捩じりながら、ドラゴンは苦しんでいたが、すぐにぱったりと動きが止まった。
アリサが慌てて竜に駆け寄ると、竜はすでに虫の息となっていた。
「やだ、ドラゴンさん、だ、大丈夫?」
ぐったりする竜は最後の力を振り絞って薄く目を開けて、アリサを見た。自分を倒した者として、ドラゴンははっきりと、目の前の人物を見つめた。
綺麗なルビーのような真っ赤な目に、心配そうに覗き込むアリサの顔が映る。
そして、その後、ドラゴンはすぐに息を引き取った。
そして、その次の瞬間、アリサに異変が訪れたのである。