第二話 この世界では科学捜査は使えないの?
私、リディ=シュバルツハルムは3歳になりました。
『こうしゃく』問題はつい最近ですが解決しました。
我が家は『公爵家』という事です。
そうよね。ただの子どもの誕生日に国の最高権力者来ないよねー。普通は!!
父様と陛下は同じ歳で小さな頃からの友人で幼馴染みだそうです。中が良いのは分かるんだけど、陛下我が家にちょくちょく遊びにやってくる。初めはビックリしたけど、こうも頻繁だと慣れてしまった。
私が生まれて1歳になるまでは遠慮して来ていなかったそうです。
そんな訳で、3歳になったばかりの私は陛下と普通に会話する間柄です。
「陛下。質問よろしいですか??」
私が舌っ足らずに紅茶片手に寛ぎまくってる陛下に質問してみる。
「どうした??リディ、何か分からないか??」
文字の練習をしていた私の手元を覗き込み、陛下は脂下がった。
何故か私に対してデレデレする陛下。陛下が来ていると同席させられらのが常だ。
「私思うのです。お仕事を真面目にしている方ってとても素敵ですわよねー。陛下はお仕事なさらないのですか?」
「なっ、リディ。わしはきちんと仕事しておる」
「そうなのですか??私、いつも寛いでばかりの陛下しか見た事がございませんでしたので……」
コテンと首を傾げながら、上目遣いに見上げてみる。
「陛下がお仕事している所は、さぞ素敵でしょうね。見とうございます」
「うぐっ」
陛下は前のめりになりながら、胸を押さえると変な声を出した。
「リディ様もそう仰いますし、陛下これより城へ戻り『素敵な所』をお見せしてはいかがです??」
すかさず宰相様がそう言う。陛下は仕事の途中で逃げて来たのか、つい1時間程前に宰相様が我が家に迎えに来たのだけど……
聞こえないフリ、見えないフリ。
良い大人が何したんだか……
宰相様が余りに気の毒になっての助け舟は、私も城へ登城する事にはなるのだが、抜け目のない宰相様の事だから私の楽しめる本などを用意してくれるだろう。
宰相様と目が合うと頷いてくれたので通じた様です。
陛下はまだ、モゴモゴ小声で言ってるが無視して更に続ける。
「陛下のお仕事は陛下しか出来ませんし、テキパキ指示を出しておられる姿なんて素敵でしょうね」
両手を胸の前で組み、夢見る乙女よろしく頬を染めてみる。
「ううっ」
もう一押しかなーー。
「リディに見せては頂けた無いのですか?」
ウルウルさせた目で見つめてみた。
「…………うむ」
おい、諦め悪いなー。
本当に渋々という感じで声を絞り出した陛下の返事に『そこまで嫌な仕事とは?』と心の中で呟いていると、ひょいと抱き上げられた。
宰相様が私を抱き上げ、先を促す様に部屋の扉前まで移動した。なかなか腰の上がらない陛下を促すと時間が惜しかったのだろう、速足に馬車へ乗り込んだ。
宰相様とはここ半年程のお付き合いだが、仕事に対して真面目で頭のキレるとても有能な方なのを話していて感じていた。前世で私の初恋の有能で、キレる素敵眼鏡のナイスミドルな刑事を思わせる雰囲気で、今世での私の初恋の人でもある。そして、大変お顔が良い更に眼鏡。
うん。まさに私の理想そのものな訳で、近くにあるお顔に見惚れてしまう。
それが気に食わなかたのか、陛下が馬車の中で不貞腐れてる。
面倒クセェなぁー。おい。
とか、思ってるうちにあっという間に城に到着。
馬車から降りようとしたら、今度は陛下に抱き上げられた。
ふふん。と音が出そうな、ドヤ顔で見られたのでサービスして上目遣いで頬を染めて差し上げた。
それで、気を良くした陛下はスキップでもしそうな軽い足取りで執務室へ。
そこで待ち構えていた父様に椅子に縛りつけられた。
え、例えじゃ無いよ。本当に魔法で椅子に縛りつけられたよ。父様、不敬では?と思ったのが顔に出ていたのか「このぐらいしないと、また逃げてしまうので誰も咎めやしないよ」と笑いながらソファに移動させられた。
「エディ!!これでは身動きが取れんではないか!!」
「手は動くようにしていますよ」
父様、笑顔ですが目が怖いです。
ソファに座った私の前に宰相様が魔法の本を置いてくれる、私はウキウキしながら本を手に取ると側に控えていた侍女さんが紅茶とクッキーを出してくれた。それを頂きながら本に目を走らせる。自宅の書庫の本は大方読んでしまったので、初めて読む本は正直嬉しい。城や、国立図書館の利用は13歳からと規定があるため3歳の私では本を借りる事も出来ない。ので、時々父様に無理を言って借りて来て貰っていたのだが、正直忙しい父様に毎回頼むのは気が引けて中々頼めずに我慢していたのだ。
今日、宰相様が用意して下さった本は下級魔法から上級魔法まで網羅された本で、細かい字でビッシリと書かれていたのだけれど、私は気にする事なく読み進める。
その様子に、執務室を出入りする文官さん達は驚いた様に動きを止め、隣に座って仕事をしている父様を見て『ああっ』みたいな声を出してまた動き始める。
そう、3歳がこんな本読んでたら普通はビックリするものだろうけど『我が家』には前例があるので、父様の顔を見て皆さん納得されるようです。
なんせ、リアム兄様は100年に1人の逸材とか、天才とか呼ばれてます。
8歳にして既に数々の逸話を残しているのだけど、正直どこまでが本当の話か……
というのもあるので、全部を信じているわけでは無いけど、事実として8歳にして既に上位の精霊と契約を交わしている。しかも、『風』と『水』の2体と。
普通の人は、アカデミーに入学してから契約をする事が殆どなので、大体13歳位に契約する事になる。それだけ、リアム兄様は規格外って事なのだろう。
たがら、3歳の私が規格外な事してても『あー、あのリアム様の妹君かぁ』位に思ってくれるので、中身が大人なのはバレてないようです。
コンコンコン
「父様。リアムです、リディを迎えに来ました」
本に夢中になっている間にいつの間にか夕方になっていたようで、リアム兄様が執務室に迎えに来てくれた。
「ああ、もうこんな時間か。陛下、リディはもう下がらせますよ」
「何??泊まっ」
「下がらせますねー」
有無を言わせない笑顔で言い切った父様はさっさと扉を開けると、リアム兄様に私を託した。
後ろで陛下が何か言ってるのを無視すると「気をつけて帰りなさい」と言うと扉を閉めてしまった。
「リディ、さあ帰ろうか」
リアム兄様の手を握り廊下を歩く。行きは抱き上げられていたので、歩くと馬車留までがすごく遠く感じる。
「兄様?わざわざ迎えに来てくれたのですか?」
「ああ、ロナウド殿下と一緒にお勉強するのに登城していたんだよ。父様から伝言があって、帰りにリディを迎えにくるようにって」
「そうなのですね」
リアム兄様は第一王子のロナウド殿下の側近候補なので、時々『お勉強会』なるものに参加する為に登城してる。ただ、普通の8歳向けのお勉強がリアム兄様に必要とは思わないけれど、そこは貴族のお付き合い的なものがあるのだろう。
兄様も大変ねぇ。
「そういえば、先程本で読んだのですが!魔法には自分の痕跡を消してしまうものもあるのですね」
「あー、『風』と『闇』の混合魔法だね」
「ええ。それだと犯罪が起きた時に犯人が痕跡を消してしまうのでは無いですか?どの様に捜査するのです?」
そう、さっき読んでいた本に書いてあったのだ色々な魔法の組み合わせで自分の痕跡を消してしまったり、姿形を変えたりする魔法の事が。
これでは『科学捜査』は不可能。鑑識も活躍出来ない。
「魔法が絡む犯罪とかだと、貴族が絡む事が多いからかなり難航するだろうし、リディが言うように痕跡は消されてる事が殆どだろうね」
「指紋や体液鑑定なんかをする、科学捜査などはしないのですか?」
「なんだい?『かがくそうさ』って?指紋や体液を鑑定して何が分かるんだい?」
え?
やっぱりぃ?!科学捜査なんてやらないの?!てか、そもそも痕跡が無いし出来ないのか!!
はい、前世のオタ知識があまり役立たない事が判明しました。
その後、兄様が何か言ってたけど『前世』が通用しない事にショックのあまり何も聞こえなかった。
拙い作品を最後まで読んで頂きありがとうございます。






