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第0話 プロローグ
これは僕の長い長い夜が明ける物語。
虚構で塗り固められた自分に吐き気がする。
自分の道も歩めない自分が嫌いだ。
学校では他人の顔色を伺い、家では母さんの望む優秀な息子を演じる。
本当の自分を晒せばきっとみんな離れていってしまうから。
眠れない夜はそんなことばかり考えてしまう。
眠るだけ、眠ることだけ考えろ
手足の力を抜いて、頭を真っ白にする。
何も考えない、何も考えない
母さんが隣の部屋で見ているニュースの音が邪魔をする。
「十三年前起こった谷山真希ちゃん誘拐事件についての続報です…」
遠くで雷の音がした。
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窓ガラスに激しく打ち付ける雨粒のせいかその夜は奇妙な夢を見た。
嘘で身を包んだ僕は鼻を長く伸ばした操り人形になっていて、永遠の闇が続くような鯨の腹の底に飲まれていく。
やがて鯨に吐き出された僕は海岸の大岩に打ち付けられてバラバラになった。
壊れた僕を見て悲しんでくれるお爺さんも、直してくれる妖精も、そこにはいなかった。