報い
超絶鬱展開です。
残酷な描写を含みます。
攫われた村人を連れ戻すべく、兵たちが竜の速度を上げる。
向かうは先程攻め込んだ海底深くに沈む城。
やがて、その周辺に着くと先頭部隊が声を上げた。
「誰かいるぞ!」
警鐘が響き渡り、兵たちは目を凝らす。
視線の先、男が右手を天へと掲げる。
と、次の瞬間、兵たちは自分たちの乗る竜ごと巨大な泡に包まれた。
槍で突いても火を吐いても、弾ける様子は微塵もない。
必死の抵抗も虚しく泡はゆっくりと宙を漂い、術者の周囲に集められた。
男は青いマントを羽織り、王冠を被っている。
彼が海底城の王であることは誰の目にも明らかだ。
その王が今、どす黒いオーラを纏い佇んでいる。
比喩などではなく、はっきりとそのオーラは兵たちに見えている。
口々に喚く兵たち。
そんな彼らを、深い憎悪を宿した瞳が睨んだ。
「よくぞ参った。まずは処刑をご覧に入れよう」
そう告げると、攫われた村人たちが同じく泡に包まれた状態で姿を現した。
皆、口々に助けを乞う。
兵たちも村人の解放を命じる。
しかし、聞き入れてもらえるはずもない。
王は魔法で無数の槍を生成すると、無惨にも貫いた。
響く悲鳴。
赤く染まる海。
死体はドブンと音を立てて沈んでゆく。
半狂乱で泣き叫ぶ兵たち。
しかし、王はそれでも飽き足らず、泡に包んだ村人をもう一人呼び出す。
その瞬間、キッドの目が見開いた。
「ロゼ!」
叫ぶキッド。
その目に映るロゼが涙を流す。
「キッド! 逃げて!」
「何言ってんだ! お前を助けるのが先だ!」
「私のことはいいから!」
「馬鹿なこと言ってんじゃねえ!」
必死に叫ぶ二人。
その様子を見て笑う王。
「実に愚かだ。守るべき者がありながら、いたずらに他人の恨みを買う。結果、お前は大事な人を失うこととなる。悔やむがいい」
そう静かに告げると、王はロゼを貫いた。
「ロゼぇぇぇぇ!」
キッドの叫びが響き渡る。
手を差し伸べても泡の中から届くはずもなく、ロゼの悲しげな顔がその目に映るのみ。
血を流しながらロゼは最後の力を振り絞る。
「キッド……もう、争わないで……」
その言葉に一番大きな反応を示したのは、キッドではなく王だった。
ハッと息を呑み、目を見開く。
思わず魔力に乱れが生じ、兵たちが泡から解放される。
キッドはこの一瞬の隙に、落ちてゆくロゼのもとへと向かい受け止めた。
だが、もう彼女に息はない。
キッドの頬を涙が伝う。
と、次の瞬間、キッドを含む数名の兵たちが王へと突撃した。
しかし、すぐさま我に返った王が再び兵たちを泡へ閉じ込める。
キッドはその泡を狂ったように叩く。
「何でだ!? どうしてロゼを殺した!? 殺すならオレを殺せばよかっただろう! 何で!? 何でだよ!?」
叫ぶキッド。
その度に怒りを燃え上がらせる王。
そして、ついに王の怒りが頂点へと達した。
「ふざけるな! 貴様らとて、我が娘の命を奪ったのだぞ! その女と同じくらいの歳の、若く美しい姫の命を!」
王の叫びがキッドの脳に反響する。
前日のロゼの言葉が再び頭を巡る。
直後、キッドは号泣と共に剣で泡を乱打しだした。
「ロゼを……ロゼを返せ!」
喉が枯れる程に叫ぶキッド。
その様子を見ていた王は、しばらくして泡を解くとキッドを自らの前まで魔法で連れてきた。
目の前まで連れてこられたキッドは、剣を何度も王へと叩き付ける。
しかし、その全てが水の盾に弾かれてしまう。
それでもなお、乱打するキッド。
その小さな体を貫こうと、王が槍を振り下ろそうとしたその時。
「撤退だ、キッド!」
泡から逃れ出た一人の兵がキッドを抱きかかえ、一気に空の彼方へ向かって竜を飛ばした。
「やめろ! 離せぇぇぇ……!」
フェードアウトしてゆくキッドの声。
他の兵たちも泡から逃れ出て、それに続く。
当然、王は再び泡に閉じ込めようとする。
しかし、急に魔力が体から抜け出し、逃がす羽目になった。
王は怒りを露わにする。
「何故止めた!」
叫びと共に虚空を睨む王。
その直後。
「その方が面白いからだ。もっとお前の憎悪を我に示せ」
低く恐ろしい声が答えた。
王はその声の主を知れども、どこにいるかはわからない。
ただ虚空を睨み、悔しがる他なかった。