妖怪あかなめ
べろべろべろーん。
真っ赤な舌を長ーく伸ばす、おいらの名前は妖怪あかなめ。
お風呂の桶や、浴槽にこびりついた垢を舐めとる、こわーい妖怪だぞ~。
だけれどこのご時世、人間たちは潔癖症で昔よりずっときれい好きだ。
あいつらはあろうことか、お風呂場をぴっかぴかに掃除してしまうんだ。
おかげで最近はろくにご飯にもありつけていない。
それだけじゃない、最近の人間は怖がるどころか、妖怪のことをすっかりと忘れ果ててしまっている。
「そこで、妖怪のみんな! おいらに力を貸してくれ!」
月に一度の妖怪集会。みかんの空き箱に乗っかって、その場でおいらは一生懸命叫んだ。ところが。
「お、やったぞ。星5キャラが出たぞー」
「むむむ、このモンスターは手ごわい……」
「わーい、素材が落ちたぞー」
まったくもってみんなの反応は鈍い。一部のやつらは人間の娯楽にうつつをぬかしている始末だ。
「おいらたち、このままでいいのかー! 人間たちから忘れ去られたままでいいのかー!」
「あかなめうるさーい」
「どうでもいいー」
「そうだそうだー」
「うわーん」
血も涙もない皆からの言葉に泣き崩れるおいら。と、その時。
「これこれ、あかなめや。これで涙をお拭き」
背中を丸くしてさめざめと泣いている。そんなおいらを慰めてくれたのは、ぬらりひょんのじっちゃんだった。ぬらりひょんのじっちゃんは、妖怪の中でも一目置かれる、なんでも知ってる知恵者じいさんだ。
しばらくして落ち着いたおいらは、自分の悩みを相談することにした。
「おいら、人間に忘れ去られるのが寂しいんだ。じっちゃん、何かいい方法はないかな」
「ふむ、いつの時代も妖怪の役目は変わらぬ、人間に恐怖を与えればよいのじゃ。具体的にはじゃな……」
そしてじっちゃんは、その方法について教えてくれた。
この世のどこかの一室で、とある男は呆然としていた。
彼がのぞいているのは最近はやりのSNS。その自分のページに書かれていたのは――。
『べろべろべろーん』
『べろべろべろーん』
『べろべろべろーん』
まるで舐めつくすかのように並ぶ文字列、そこで彼は気が付き絶望した。
「うわーっ、乗っ取られたー!」
見覚えのない投稿、変えられたパスワード。ヤツが出たのだと。
SNSに出没する世にも恐ろしい謎の乗っ取り魔。そいつはしばらくSNS界隈をひっかきまわし、やがて妖怪アカウントなめ、略して「あかなめ」と呼ばれるようになったとさ。
べろべろべろーん。