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1-6 異世界らしき場所

 やがて、そのアーチは帯電したかのように唸り、怪しい光を帯びて、その囲まれた空間に虹色で埋め尽くされたような煌めきを作り出した。あれがゲートというものだろうか。あれの向こうに異世界が?


 説明はないので如何ともし難いが、一つだけわかっているのは、これから俺がそこを潜るだろうという事だった。


 トラックはバックし、ゲートを潜るべく態勢を入れ変えて、エンジン音を高まらせた。


 当然、俺の鼓動も高まったが、それは見知らぬ世界へ突入するドキドキ感ではなく、不安感百パーセントの非常に頼りないものだった。


 他のトラック達も後に続いてくるのが見えた。総勢数十台のキャラバンだ。


 後ろしか見えないので、異世界初突入の貴重なシーンは拝めなかったのだが、自分の見慣れた世界が消失していく、頼りないというか心細いというか、そういう光景は拝む事ができた。


 世界は虹の中にハム音と共に溶け込んでいき、数十秒世界は見渡す限りの虹色の中にあった。そして唐突にその虹は晴れて、山の中のような道が俺の目の前、すなわちトラック後方へと現れた。


「なんだか、普通にその辺の山道みたいな場所だなあ。生えている植物は、うちの近所とは少し趣は違うが、地球でもお馴染みのような奴ばかりだ。本当にここは異世界なのかな」


 だが俺にもわかっている。出発したのは名古屋のどこかの港にある倉庫街。走って間もなく、このような山道に出るはずは絶対にないのだ。


 しかもボコボコな悪路だ。日本だと、林道でも、もう少しマシなんじゃないか。そう思えるほどの、いちいちトラックが倒れるんじゃないかと思うほどぐいっと左右に傾く酷い悪路だった。


 日本でも道路が傷んでいて左側に大きく傾く場所があるが、あんな感じになって車体が傾いて非常に怖い。紛れもなく、ここは異世界なのだろう。


「いや、空気が日本より美味しいなあ。来てよかったぜ、異世界」


 現実逃避の止まらない俺は、仕方がないのでトラックの後方に続く後続車達をぼんやりと見つめていた。


 俺がこの先頭車に載せられた理由がよくわかる。二代目以降だと、きっと一瞬にして埃塗れにされちまう。


 なんていうか、あれだ。競馬で雨の日なんかにダートのレースを走ったら、二番手以降はレース後にゴーグルをはずすと、その後がくっきりって奴だ。


 この八輪トラックは外国製のモデルで、道なき道である凄まじい悪路を走るために設計されており、車高も高く最低地上高はとんでもなく高い。


 そして当然の事ながら、荷台に載っている荷物の乗り心地は計算にいれずに作られている。


 サスペンションの構造を構成するパーツのもたらす長めなストロークは、あまり柔らかさとか乗り心地とかに配慮されない、実用一転張りの軍隊仕様だった。


 せめてシートがあったらと思うのだが。生憎と助手席には、多分荷下ろし作業などに従事をするだろう作業員が二人も乗っているので、当然のように予定外の、文字通りお荷物に過ぎない俺の席はない。


 悪路が車体を突き上げる度に、俺の胃の腑も同期して突き上げられる。一応、水のいらない酔い止めを飲んでおいたのが幸いした。


 朝飯をがっつり食ってきた事を今頃になって若干後悔したのだが、今のところはなんとか無事だ。


 これも用意してきた嘔吐用のビニール袋に関して意識を集中させないようにした。ああいう物について考えると逆に嘔吐感が増すもんだ。


「何故、目的地へ直接ゲートを繋いで行かないのか」

 そう思ったのだが、その辺はやっぱり何か事情があるのだろう。


 そうでなかったら彼らとて直接目的地へ行くはずだろう。個人的には、こういうゲートという物はドアツードアの旅ができるのが一番いいところだと思うのだがね。


 しばらく、この人間シェーカーの中で揺られながら、じっと大人しくして嘔吐に至らないようにと、ひたすらに努力していた。


 幸い、乗り物には比較的強いので今のところ大丈夫なのだが、それでもこの非情な道程が長くなるとどうなるのか。


 だが、俺がそのような心配をする必要はないようだった。やがてトラックは、手動で上に上げられたとみられる黄色と黒で彩られたバー状のゲート(異世界へ行く奴じゃないもの)を潜り、どこかへ着く模様だ。


 多分、ここが目的地なのだろう。だが、さっきから見かける植生は、少しジャングルっぽい東南アジアか、どこかの南の島か何かのようなもので、なんだか戦争映画とかB級ハリウッド映画のエキストラにでもなったような気分だった。


 そしてトラックは何かの基地? のような建物が点在する場所へ停まり、完全に停車した。大林伍長はトラックの幌の間から声をかけてくれ、「降りてください」と指示してくれた。


 俺が荷台の縁に腰かけてもたもたしていると、またもや子供のように抱きかかえられて降ろされてしまった。


 この年になって、そんな真似をされるはちょっと恥ずかしいのだが、それはもう仕方がない。もたもたしている奴が悪いのだから。


 ここは正真正銘の軍事基地なのだ。敵襲でもあったら、そんな事すら構ってはいられないのだろう。


「ふう、あいたたた。体中が痛くて堪らない」

「はは、当然です。そこは本来なら人間が乗るところじゃないんだからね」


 うわあ、何気に酷いな。だが、戦場へ観光バスやタクシーが出ているはずもない。何故こんな戦争なんかを始めているものやら。


「こっちへどうぞ。しっかりとついてきなさい。私とはぐれないように」

 そう言いながら、この伍長ったら足早に行ってしまおうとするのだ。


 俺は両手に大荷物を持っていたので、慌てて小走りに彼の後についていった。これが重いんだ。お袋ったら目一杯に荷物を詰めるんだもの。丈夫な百貨店でもらうような大袋だ。


 あたりは雑然とした感じで、物資などが溢れていた。そして、ここにも大量の兵器類が置かれていたので、またドキリっとした。


 それらに取りついている大量の迷彩服の男達。皆、日本人のようであり、また女性の姿は見かけない。


 あちこちに簡易な感じの建物が立っており、結構大掛かりな施設だ。プレハブもあれば、コンテナハウスらしき物もあった。簡易住宅のような物になっている建物もあった。


 非常に雑多な構成ではあるが、そのへんのゲリラのキャンプとは違う、いわば駐屯地のような物だろう。


 だが、ここには日の丸はただの一つも見かけない。きっと彼らもまた兄貴と同じ傭兵なのだ。大林伍長は相変わらずぐいぐいと歩いていき、ある建物の前で止まった。


 今まで見かけたものより、幾分上等そうな感じに見える。あくまで、それもここ基準でという事なのだが。そして振り向いた彼が、その若干厳つい表情に控えめな笑顔を載せて言った。


「ここに君のお兄さん、神田川大佐がおられる。神田川雷太君、長旅ご苦労様でした」


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