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1-1 ラーメン屋の苦悩

最後のへん、グロ注意です。

「おーい、親方~」


「なんだい。おい、マッキー。ちなみに親方とか爺臭い呼び方をするな。せめて大将と呼べよ。ラーメン屋なんだからさー。言っとくけど、俺はまだ二十二なんだからな」


 俺はスープの材料を入れた寸胴鍋を火にかけながら、奥の方から厨房に顔を出してきた相棒の美少女にボヤいた。


「もう、雷兄ったら。そんな事は、私が物心ついて以来、知り抜いているわい。いいじゃん、別に。じゃあさ、一人代表取締役社長さま。もう材料が完全に底をついちゃって何も無いんだけど、どうする~」


 そんな間抜けな会話に一緒に付き合ってくれているのは、この俺、神田川雷太の七つ年下の従兄妹である、神崎麻季菜だ。


 俺のお袋である神田川真澄の妹、つまり実の叔母である神崎美紅の娘で、今は女子高の一年生で絶賛可愛い盛りの妹分だ。


 その美少女ぶりは学年で確実に三本指には入るはずで、俺もこいつが純妹っぽさを100%丸出しの従兄妹じゃなかったら、速攻で口説いていただろう。


 長めに伸ばした黒髪は日頃ツインテールにしているが、仕事中はわざわざポニテールにして頑張ってくれている。


 だが、生憎な事に肝心の店の方はまったく軌道に乗っていない。いや、それどころか閑古鳥が鳴いていて、いつも無人の状態なのだ。


 こんな可愛い看板娘がいてくれるというのに、何てことなんだろうな。まさに、これこそが資源の無駄遣いだわ。


 基本的にそれは、この店の主である俺のせいなのだが。まあ俺も料理は好きなんで、学校へ行って調理師免許の資格も取った。


 家がラーメン屋なのだし。あれこれとやってはいたのだが、しょせんは素人の悲しさで、この有様だった。


 このラーメン屋も、なんというか試行錯誤の毎日で、たしない軍資金も尽き欠けているのだ。あれこれあって、唐突にポックリと死んだ親父の店で後を継いでラーメン屋なんか始めたまではいいのだが、金が無いからとてもバイトなんか雇えない。


 それで、近所で妹みたいな立ち位置にいるこいつが、仕方がないから手伝いに来てくれているというだけなのだ。ラーメン屋の若親父としては情けないにもほどがある。


 なんというか、誰がどう見ても間違いなく崖っぷち一直線としかいいようがない状況だ。文句なんか言える状況ではないのだが、それでも身内しかいなければ文句や愚痴の一つも出ようというものだ。


「仕方がねえなあ。材料代稼ぎに、どこかでバイトでも始めるかあ」


 俺はスープを煮立てていた寸胴鍋をかき回すのは止めて、横に置かれていたバイト情報誌と真剣な対話を始めた。


 まあこうなるのは既に最初から、わかっていた事なのだが。だから、そこにバイト情報誌があるのだから。


「だーっ! だからさあ。雷兄、そんな事を言っていていい時間は、もうとっくに終わってるんだってばさ。もう、溜めまくっているお店の固定資産税の支払いとかどうするのよ。そのうちに、お店も差し押さえになっちゃうからね。


 ここは叔父さんが残してくれた大事な店なんでしょ! 借金している銀行だって待っちゃあくれないんだからね! そのうちに住むところも無くなっちゃうよ。叔母さんだって、どうするのさ」


 どうして、こう女っていうものは現実主義なのだろう。やはり、子供を産むと言う、男には理解できない感覚が、XYとXXの宇宙戦闘機の形状を表すかのような記号の差異がそうさせているのに違いない。


 だが現実が待ってくれないのもまた確かな事なのだ。出ていくものは非常に多いわけなのだが、出てくるものといえばこの俺の、まるでエクトプラズムでもあるかのように盛大な、今月に入ってから一体何回目だという、もう数える事すらとっくの昔に諦めてしまった溜息ばかりであった。


「なあ、麻季菜。今週のロト7は、どうだったっけ」


「馬鹿ー。そんな金があるなら、材料費に回せー。まあその気持ちはわかるんだけどさ。残念ながら、惜しくも三個までしか当たっていないから末等すらハズレよ。ボーナス数字すらないわ。えーい若者よ、さっさと働け! 働く事は尊いぞよ」


 そう言って、あいつはその可愛らしい瞳で俺を見つめながらハズレの宝くじと、当選番号が映ったスマホをぐりぐりと俺の両の頬にねじ込んだ。


 だがまったく嬉しくない、わかり過ぎるくらいに体に叩きつけられてくる現実。これがまた、それをやってくるのが思いっきり身内なものだから、心底心配してくれている気持ちが、まるで特製の激辛唐辛子かタバスコのようなエッセンスとして俺の限界いっぱいの精神を容赦なく抉りにかかる。


「あー、どこかに一攫千金のいい話が転がっていないかなあ」


「無理無理。そんな夢物語に縋るくらいなら、いっそ店を畳んでどこかのラーメン屋に修行に行った方が建設的よ。叔父さんは草場の陰で思いっきり嘆くだろうけどね」


 そう言いながら溜息を吐く、彼女の言う事は極めて正しいのだが、俺は決めたのだ。この、親父が残してくれた店を継ぐのだと。だが、この現実の厳しさといったらもう。


「はあー」

 相変わらず、この店を満たしてくれるものは、希望とかではなく溜息ばかりなのであった。


宇宙戦艦はやぶさ2に栄光あれ。

というわけでいらん事に、勢いでこんな作品を書いてしまいました。


三日間で短期集中連載の中編です。

本日は7時・12時・18時・20時・22時。

明日13日と明後日14日は7時・12時・15時・18時・20時・22時となります。


ハヤカワ作家が書いていますが、ヒューマンドラマですので宇宙戦艦は出てきませんので、よろしくお願いいたします。


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