平行世界譚 ATONE VOICE 第二話「出会い、そして戦いへ」
かなり第二話の投稿が遅くなりまして申し訳ありません。
初期原案が出て来たので少しタイトルが変わっています。
登場人物がほぼ出揃いました。
今回は少し遊びの会話を入れています。やや、作品世界と乖離が感じられるかもしれませんが。
今話から地上編。
もう一つの地球から見える世界観と二つの世界の説明。
それなりに登場人物が増えますがヒロイン達の登場による変化が起きてきます。
世界を渡った人々を切っ掛けに対立したグループと少数のレジスタンス的な人達が、決着を求めて行動します。
ピン・モニュメントの到達時の様子と人々の行動や混乱と、謎の解明、二つの世界の関係も描いていきたいと思います。
では、始めよう。
第二話「出会い、そして戦いへ」
降下していく二機の影。
疑似人格思考を行える人工知能ズィンムを搭載したMTM=マルチタスクマニューバー。
増装部分はかなり削げ落ち、地上活動用の部分にも障害が出ていると伺える。
メガサムソック・MkⅧも移動手段の殆どを失っており、最早落下に近い。事実、重力に引かれていく。
機能を維持している両腕に残されたサブスラスターが唯一の状態。
そのコクピット。
ステアは不快な表情をしながら絶え間なく続く僅かな振動と体を縛り続けるジェルの感覚、そして時間障壁の圧力感に耐えていた。
『マスター、すみません。外見から来るダメージの報告と対処案です』
「ええ、構わないわ。・・・是非教えて・・・」
『両機とも推進機能に大きく影響が有ります。よりメガサムソックに顕著です。私の方では地上活動用のサブアッセンブリーが使用可能・・・ただし一回のみです』
「まあ、予定どーりってところかしら?でもサブが使えるとは驚いたわ・・・さすがねズィンム」
『その為デッドウェイトとして使用不可の部分の強制パージ。それに伴い両機の緊急ドッキングを行います』
「・・・」
『これにより地上到達と積載物の保護がより上位で確保できます』
「バリュートパックでクッションになって自己犠牲を?・・・いえ、でもそれしかないか・・・」
『可能性が最も高いので推奨です』
ステアは視線カーソルでヘルメット内のディスプレイに表示されるダメージモニターを幾度か切り替える、そして、ため息を小さく一つ。
「それでいきましょう」
『了解しました、両機のリンケージを現状のまま。
強制パージと緊急ドッキングを実行。
恐らく完全な接続は無理と考え、接触回線と併用してドッキング後の姿勢制御と軌道変更を行います』
「任せたわ。・・・頼りにしてるズィンム」
『ふふ、これは張り切らねばなりませんね』
思わず口角があがるステラ・・・すぐ引き締め。
「いい位置に下りられればいいけど」
『女神の運次第ですが、居ますから何とかなるでしょう。きっと』
「いうわね。・・・うん。そうね、きっと大丈夫」
『では実行します。シンクロ開始。・・・同期率確保・・・パージ及びドッキングを開始します』
MTMの背部に有る、すでに残骸に近いディフェンダーが切り離され、アームで支えられていたバリュートユニットが接続される。
並走しているメガサムソックでも機首部分を射出してやや薄い菱形のボディと、左右のかろうじて繋がっている両腕、ボディ上下面の左右に一基づつある・・・あったバーニアスラスターごと、全て分離。
これで自立飛行は失われる。
ステアのため息にはこれらが機能を失っていた事を嘆いたもの。
そして言葉にならない「ありがとね」の口の動きは果たして誰が見届けたか?
機首部分となったメガサムソックの後方に移動したMTM。
その外見はインカーネートタイプらしく人の姿に戻っていた。
そして胴体中央の四本のドッキングブリッジを展開。メガサムソックの後部を掴んでいく。
こうしてみると巨大な砲身を胴体に取り付けた様だが、事実、射出に機能するシステムが備わっている。
しかしそれは純粋に攻撃の為ではないのだが。
距離をどんどんと広げていくパージした部分は、やがて減速しその姿を消す。
シャフトから外界へ吐き出されたのだ。
どちらの世界に実体化するのかは状況次第。
今回は降り立とうとしていた地球に実体化、して爆発、消滅した。
『シャフト離脱まで約90秒』
ステアは離脱の衝撃に備えて体を強張らせ目を閉じた。
ここで視点が変わり、時間も少し前に戻る。
丁度、ユリシーズゲートが再起動する直前あたりに。
地上に二台の車両。
土煙を上げ並走している。
以前は整備されていた高速道路らしき道、しかし、今は通行できるだけマシな道と言えた。
周囲は山が二つ、緑豊かだったがすでに土の山と化しており台風でも来たら大惨事だろう・・・けど見渡す限り建物はおろか人影も見られない。
その車両は同一のコンセプトでデザインされているので同じメーカーの型式違いなのだろう。
一台は長いホイールベースで荷台を持っていてピックアップに分類される、うすら長いボンネットにはこの時代には旧式と言ってもいい直列6気筒で4200ccの排気量のガソリンエンジンが静かに回っていた。
不整地走行を念頭に置いて開発、丈夫過ぎる市販車だ。
特筆すべきはフロントウィンドゥが可倒式であり、そして今は倒して走行中だ。
運転者は目にゴーグルを掛けている。袖をまくってTシャツを着ており筋肉を鍛えていると感じられる外見だ。
もう一つの特徴も見られた。
左目の上、眉毛を真ん中で二つにするかのような傷跡は活動家らしい逸話が絡む。
もう一台、此方はショートホイールベースでいかにも四輪駆動車といった外見をしている。
排気量3500ccでターボチャージャーとインタークーラーを装備した5気筒ディーゼルエンジンが独特のサウンドを響かせている。
特筆できるのは電動式のフルオープンからクローズドまで行える仕様だろう。
ロールバーを兼ねたBピラーを境目に前席側のルーフとフロントウィンドウが折りたたまれてボンネットの上に固定され、非対象の観音扉のガラスはリアゲートの中に収納されCピラーはBピラーまで前進して一体化する。この間にはまるでガラスで出来たシャッターの様なルーフとサイドが天井中央で二分割されてボディの中に格納している。
今は並んで走っているのでフルオープン状態だ。
運転者はサングラスをかけてやや上質なYシャツを着ていて細面。ただ、運動神経も筋肉も悪くはない・・・いわゆる細マッチョだろう。
ピックアップの彼は言う。
「ヨリイ、今回の橋渡しで暫くは仕事がないんだろ?」
それに応える彼。
「まあ、一応な」
「小前田コンツェルンでもなにも情報が得られないのか?」
「クロヤ。あまり公に俺は接触できないのを知っているだろう・・・」
「奴らの一番に協力している企業のトップの息子がレジスタンス活動してちゃなぁ・・・」
「そっちだって、男衾議会委員長の息子だろう」
「政治家とつるんでるガメツい連中と俺んちは別だって」
前に石や朽ちた木の塊が見えてくる。所々にこう言ってモノが点在している。
二台は会話を止めて左右に距離を空けて障害物をやり過ごす。
再び会話が出来る距離まで近づく。速度が出ておらず急ぐ理由が二人には無いからだ。
クロヤは父の立場から直接レジスタンスが絡む話の場に出ていないので訊ねる。
「御花畑さんとマージィさんからは今後の計画は聞けなかったな」
「一応、再突入計画が予定通り実行されるのは間違いないらしい、マージィさんからも、ただでうまくはいかないだろうって話が」
「何かのイレギュラーって可能性?」
「ああ」
ため息を漏らしつつ呟いてクロヤは話を終わらせる。
「まあそうだよな・・・それが良い方に転がれば」
二人の思う気持ちは一緒だった。
「けど、あの時の落書きと言うか・・・交換日記って俺たちは言っていたけど、こんな事になっていくとはな?」
「こっちは巻き込まれたんだぜ?港町に来ていた政治家の父とその息子が・・・いや親友のクロヤがあんなのを見付けたうえ、手を出すからなぁ」
「こんな時に親友ってか!ヨリイ!そっちだってノッて来ただろ?」
「おう!そうだ!」
「・・・いや、だったら話を振るなよな・・・それにあの頃って子供だろ」
「少しして、大人たちが騒いだ。特に交換日記に書いた日付と時間が問題視された」
「それ書いたのヨリイだぞ」
「・・・、なあ、その時の返事を書いた奴って誰なんだろうな?」
気まずい時間が流れる。それを二人は無言でやり過ごす。
「その後だ」
「ああ、突然人が減った」
「そのあたりの見解は、離れた世界。もともとの地球に戻っていったと見るのがいいのか?」
「御花畑さん・・・博士とマージィ技術長は同じ意見だ」
「じゃあ、皆は何で同じ場所に居たんだ?」
「ここからは推測だ。違っているかも知れないし、あの二人の意見も異なる。あくまで私見って事で良いな」
「いいぜ」
「クロヤ、今、間違い無く二つの世界・・・地球が存在している。ここまではいいな」
「ああ。元は同じってとこまでは承知している」
「そうだ、多少の違いは有るがほぼ同じ歴史だ」
「何らかのきっかけで二つに分かれたのか?」
「もともと二つだった可能性もある。結びつけていたのが離れたって見方もある」
「ヨリイ。お前はどっちだと考えているんだ」
「結論から言えば。今はあのピン・モニュメントによって二つの世界・・・地球が結び付けられていると思う」
「今は?」
「そう、以前は一つだった二つの世界の状態ではないかと思う}
「どっちなんだ?」
「行き来のできる世界だった」
「・・・いいとこどりの意見か?」
「いや、それぞれ別の可能性のあるけど独立した違う世界が重なっていたか。扉の様な存在が有って成り立たせていたんじゃないかと思う」
「随分と御都合主義な見解だなぁ」
「事実は解らんよ」
「そうだなぁ・・・」
「あとはあの実験」
「コード・フィラデルフィアか」
「ああ」
「特殊な電磁場からの干渉力場が斥力を時空間に対して・・・ってやつだ」
「二つの世界が元々の状態でこれによって扉を作った。とも、一つの世界を分割したとも言われている。
けど、お話合いが好きな連中のネタでしか過ぎないぜ?」
「クロヤ、もう少し興味を持った方がいいんじゃないか?」
「それまでの世界を説明しようとしていないからな」
「俺たちだってそれぞれ別の地球の人間で、いついなくなるかって不安になっていたがな」
「それが、家族は勿論、国家間まで波及したからカオスになった」
「うん。ひどかったな・・・」
「話を戻すぞ」
「ユリシーズ・システムに絡むからか?」
「そう。シャフトを通過するのに必要な技術だろ。元は生命体が転移できないユリシーズ・システムの欠点克服が最も貢献した出来事だ。
それが。・・・今の状況を生み出しているが・・・」
「UN・LIVING THING・IMPOSE・SUBSTANTIATE・RENDER・ZONE・システム・・・非生命体跳躍実体化搬送領域。その名の通りだけど、生き物を送れる段階で改名すべきだろうに」
「なまものを転送するのに支障が出て、新鮮な食料品や調味料と薬品やら木材にも重大な影響がでるから最大級の失敗技術って言われたからな」
「その代わり、鋼材や樹脂や爆発物の移送に貢献したんだが」
「爆発物のところで不味いって事で情報操作させたんでしょ」
「そうなんだがな・・・」
そこまで話した時。
衝撃と圧力、そして一瞬の輝きが空を覆う。
「どわ!」
「ショックウェーブだ!誰かこっちに来やがったぞ!?」
「きれーなねーちゃんならかんげいするぜ」
「まじめにやれ」
「よし!ターンするぞ。多分アレが来訪者だろう」
「後ろか?・・・なんだありゃ」
ぼんやりと見えていたシャフトがはっきりと存在を主張し、虹色に煌めく。
虹が真っ直ぐな竜巻の様になったと言えば丁度良い表現だろう。
そこに黒い歪みが現れゆっくりとシャフトの外へ移動して爆散した。
メガサムソック・MkⅧのブースターだ。
爆散したが瞬時に消滅。元の世界へと飛ばされた。幸運にも爆発のエネルギーはこの世界に影響は無く、しかし転移先では酷いだろうが。
やがて虹のかけ橋とも呼称される現象が現れる、実体化に伴う波状紋の視覚化だ。
そして接続した状態の二機が出現、すぐにバーニアを使いMTMが地上に向けた姿勢になる。
「おい!何だアレ!」
「語彙が少ないですよクロヤ」
「ヨケーナお世話だ!いつも一言多いぞ」
ヨリイに向かって怒鳴るクロヤ。が彼は車体をクローズモードに移行しつつあり、声は届かなかった。
「・・・たくっマイペースだ」
クロヤは直結四駆走行に切り替えて、一足早く道を外れてラフロードと呼ばれるオフロードへと車体を躍らせる。
後続するヨリイはそれを見てため息をつく。
「スイッチが入ったか・・・」
面倒ごとに首を突っ込むクセと、荒れた道を走ると人が変わる性格を熟知させられた苦労が偲ばれる言葉を呟いて居た。
「けど、これだけのイベントだ。あちらさんがほっとくとか知らないとかないな」
あちらさん。すなわち来訪して侵攻を果たしたもう一つの地球の人々だ。
視点を向けよう。
「間違いないな?」
「ああ、ショックウェーブと虹の架け橋現象を確認。間違いなく作戦の突破者が到達」
「生きているか?」
「それは不明。探索に行く必要有り」
「よし、ハーケン・1の発進を許可する。
人員を急がせろ!目的は探索と発見、戦闘も許可。
準備でき次第、発艦態勢に移る」
「了解、離陸準備を始める」
場所は人気のない市街地。
広大な通り道には行きかう人も車両も無い。そこに悠然と佇むのがこの世界へと訪れたもう一つの地球人の拠点となるB・O・S、ベースオブサーベイヤー。
円状の艦体中央から二つの艦首が伸びる。この首の中に大気圏内活動用のハーケン・1と重力圏離脱可能のハーケン・2を収容しカタパルトを兼ねている。
艦橋も塔のように聳え立ち、窓は無く特殊なフィールドコイルが姿を見せている。
この三か所は形状が似ている。まるでドラゴンか龍の頭だ。
艦尾にはやはり長く伸びたスラスターが二本、今は高度を取る為に活動を盛んにしている。
艦隊両舷には一際巨大な羽、力場の制禦パネルだが、片側三枚ずつ計六枚有る。
変わっているのは航空力学的な翼ではないので縦に並んでいるのだ、太陽光発電パネルか平板状のレーダーパネルの様だがこれだけで巨大な艦体を浮かす機能を持っている。
シャフトを通過する為に改修を受けたが、コード・フィラデルフィアの実験継承艦であり、ユリシーズ・システムの有人化と自立転移の実証艦でもある。
もう一つの地球への技術提携そのものだ。他にも長期間の生活を維持するプラントと機能維持に必要な機器と設備を搭載している。
なにより、違う世界の観測が主任務だ。物質と人を対象とした。
左右には寂れたビルが整然と並ぶ。
その中の一室。と、屋上にB・O・Sを監視する人影が有る。
その屋上では、二人の40台の男性二人が身を潜めていた。
「やはり動いた。連絡を」
「了解、三本首が活動を開始」
「マージィさん、連中が直接かね?」
「いや、ハーケンを使うだろう」
「俺なら直接行くがなぁ・・・」
「御花畑さんよ、アンタ本当に学者か?まるでファンタジー世界の荒ぶる冒険者の風情を感じるが」
「名前に負けんようにしているだけだ」
「突っ込まんよ」
「軍属引退者だっけ?やけに慎重論者だな」
「水が合わなかったんでな、それより下の連中に釘を刺しておいた方がいい。先走られるとまずい」
「了解している。小前田君、聞こえるか?そっちで勝手に手を出すなよ!」
話をしながら通信機器をすでに操作していて要件を伝えると返答を聞かずに通信を切った。
「近いから、警戒は当然だが・・・向こうはこっちの観測行動には自由にさせているだろ?」
「いや、来訪時の状況とは余りにも変化している。
あの引き籠ったら出てこない事情は軽視すべきではない。
こっちの偉いさんたちとも話をロクにしていないのは、差し迫った事の可能性を受ける」
「その洞察力・・・想像力?・・・には感心する。まあ、同意だけどな」
「あの御曹司コンビのおかげで多数の同時活動がやれる。一度きりの機会だ、無駄にはできない」
「そうだな」
「カタパルトが・・・」
「ああ、ハーケン・1だな。2だと大気圏突破を持つ。・・・となると近場か?
違うか・・・転移で行くのか?」
「転移に必要なエネルギーは足りていないんじゃ?」
「では加速で弾道軌道を使うかもな」
B・O・Sの左側の首の下が三か所降りてくる。中央が長く、その前後は間隔を置いて細い。
中央にはハーケン・1が格納態勢で置かれている。
その前後は加速リングだ、この首には加速リングが多数設置されており必要に応じて稼働させる。
ハーケン・1は独特の形状をしている。ボディは半円型の全翼を分割して芯を入れた感じ、格納の為の変形機能から航空機然としていない。
飛行能力は有るが、有人自立転移の実証機なのでアーマーと呼ばれる戦術汎用支援火器(All・Range・Multi・Maneuver・Assist・Arms)をベースとしている故だ。
ハーケン・1が主翼を展開し、ムーバブルスラスターを広げ、前後を詰めた機首部分を延ばす。
巣から飛び出そうとしている鳥を彷彿とするが・・・。
同時に加速リングと格納台が左右に分割首の側面の指示部ごと外に向けて伸びていく。
そして加速リングが動力を受けて力場を生成する。
「発進するぞ!防眩体制に!!」
通信機器を再度素早く起動させて御花畑博士が目を強く瞑ったまま叫ぶ。
一瞬の目映い光が辺りを包む。
「無事か?」
「ああ、キツイなこの近くだと」
「三本首のフィールドコイルを使えば転移できるんだろうが、今のはどうやってんだ?」
「加速に使っている。転移の時に空間を抜ける速度が得られるんで、転移を途中で無効にするんだ」
「逆なら準光速弾か・・・」
「自分が移動している時ならな」
「この世界に来た理由は有人転移の実験なら使えばいいと思うが?」
「リスクと言うより、回数制限が大きいんだ」
「つまり、使えねぇってヤツだな」
「そういう事。それより無事か下の連中にも聞いてくれ」
「分かった・・・みんな平気だったか?・・・ん・・・よし了解した」
「下も無事か」
「無事だが、撤退だな」
「そうしよう、全員撤収!急げ!」
慌ただしく退避する人影をモニター越しに見遣るB・O・S内のクルー達。
「ネズミと、ネズミに成り下がった愚者ども・・・裏切り者のお陰でこっちは窮地に立たされた。必ず潰す」
暗く呟く責任者バーヒィ・ナンブを遠巻きに見つめるのは、その場にいた全員だった。
飛行中のハーケン・1の中では血気盛んな機長のドラーフゥに操縦士のスピリッフィと通信士のファーストボールが険悪な雰囲気を醸し出していた。
「絶対に見つけて叩く。早く決着をつける」
「いや、すぐ見つかるか分からない」
「プローブを使っても確実ではないです」
撹乱した航跡に惑わされ、意見の衝突で現場に辿り着くのは夜遅くになるのだが。
一方、血シャフトから目まぐるしく軌道を変えるステア達を追いかける2台の車両は、枯れた川とかなり広く大小の砂利に覆われた河原に辿り着きつつあった。
MTMは途中でバリュートをパージ。減速と姿勢を安定させるのに全力を傾けていた。
やがて河原の中に到着したクロヤとヨリイは距離を置いて落下を見届けようとしていた。
「?なあ、ヨリイ・・・急にこっちに向かって落ちて来てる様なんだが」
「ああ、来てるね。けど、迂闊に回避できないな。未来を予知できればいいけど」
「ギャンブルって苦手なんだよな」
「人生がギャンブルな人に言って欲しく無いセリフだ」
「ヨリイ、お前こそ」
「クロヤには負ける」
「そろそろ余裕がなくなるな・・・」
「このままの方がイイだろうが、後ろに走るんならターンする時間が必要だ」
「ああ」
「タイミングは任せる。これは野性のカンがイイだろう」
「・・・」
落下スピードが最大に下がって二人の前方、対岸の小高い崖にぶつかり多くの土煙と吹き飛ばされる大量の土砂。
河原に落ち、それでも止まれずに滑走し、わずかに流れる川の水を蹴散らしてクロヤとヨリイの居る側へ結構なスピードのまま接近してくる。
幸いその間隔は200メートルは有るだろう。
そして段差の有る川岸にぶつかり飛び散る石に土、思わず腕を顔に持っていくクロヤ。
まだ止まり切れない。不安を二人が感じるが。
小さな祠を頂上に祭ってある大岩に激突してやっと停止した。
「あ~あ、罰当たりな事を」
「いや、あの祠の意思で停められたのだろう」
「そうかぁ」
「けど被害は甚大だ、祠は完全に壊れたし、大岩も威厳を失った状態だ」
「賠償させても受け取る奴がここらにまだ居るかな」
「これは事故だ」
「時々理解を超えるんだよなコイツ」
最後のそして大きな衝撃がゲルを通してコクピットに伝わる。
「やっと着いたみたいね」
『しばらくお待ちください。周囲の確認を行います』
ため息を一つ。
顔には安堵の表情が浮かぶ。
「お風呂かシャワーがほしい」
女性らしい呟きだった。
ズィンムは落下中に接近している車両と搭乗者の動向を観測していたが、危険度は低いと判断していた。
むしろ、実体化の探知がなされているのが確実なのでB・O・Sからの探査か攻撃に備える事が急務だった。
しかし、機体は自動修復の範疇を超えており、加熱と衝撃の影響はすぐに去らない事が判明していた。
時間は有る。
けっして多くは無いが、次の状況に備える分は確保しなければならない。
その為には、あの二人。そして車両。メガサムソック・MkⅧの予備備品だけのペイロード。
全部は無かった。揃っていなかったが、作業スペースが確保されている。半自動で着工に支障は無いだろう。
人工知能は思考する。作戦遂行に最善を尽くす為に。
あとは。
『お嬢様にはシャワーに入って頂きたい』
「え?いいの?」
『はい、現地の方に協力を仰ぎます』
「・・・男の人?」
『はい』
「人工知能が色仕掛けを推すの?」
『いえ、エチケットです』
「分かったわ、いい子なら良いけど。時間は有るの?」
『いつもより幾分早めに』
「追手が来るまでに時間が余り無いか」
『ええ』
「それまで彼の相手をお願いね」
『彼ら、です。お二人です』
「☆、そう・・・任せたわ」
『よろしくお願いします、お嬢様』
「懐かしい呼び方ね」
機体に近づく二人。まだ熱が周囲を覆い尽くしていて立ち止まる。
外部監視カメラが二人を捉え続ける。
クロヤは好奇心全開で興味深く見回している。
ヨリイはカメラがずっと追跡している事を眺めていた。
「何かするんなら、もうとっくに仕掛けているな」
「どうせまだ再起動中だろ?・・・けど変わった機体だな。後ろは人型で前は大砲か?」
ヨリイは溜息をつきながら腰に手をやり呆れた顔で。
「クロヤ、これは一個の機体じゃない。なんかの事情で繋がっているんだ」
「ああ、なんかアームが有るしな。だから何でこんな形状なのかって事さ」
「こういったのはクロヤの大好物だからな」
「おお!美味しく頂いてるぜ」
「まったく。・・・音声も拾っているだろうし、どう判断する物か」
唐突に扉が開く。
さすがに警戒する二人。
が、何も起こらない。
「入ってみる。ヨリイ。外を警戒して」
「俺も興味がある」
「ん。じゃ先に行く」
「気をつけろよ」
いそいそと作業手袋を付け出すヨリイ。
タラップに足をかけ手すりになりそうな場所に素手を延ばすクロヤ、にやけるヨリイ。
「ぐっ・・・あ!あ!・・・熱い!」
目を伏せ俯くヨリイ。その肩は細かく震えている。
「ヨリイ、準備がイイな。狙っていたな」
「君ならこれくらい大丈夫と思っただけだ。普通なので安心したよ」
「くそ・・・。こんなんで中に入って平気か?まったく・・・」
「何かあればもう仕掛けられているさ」
「そうだな」
クロヤも振っていた手に手袋を付ける。
中は暗くはあったが小型の照明が灯り、大体の広さとパーティションが見て取れた。
中央には通路。左右には置き場らしきスペースと色々な機器が固定されていた。
しかし、手前側の置き場にはロールケージに包まれたシートが前後にかなりの距離を置いて二脚。
その周りには多軸アームが数台。部品と思しき箱が多く並べられている。
通路の反対側には大きな機械が二機。形状が全く異なる。
興味を大いに刺激されるクロヤとヨリイ。しかし、警戒して周りを眺めるだけ。ヨリイのサングラスは自動で色が透明になっていた。
唐突に響き渡る音。近づく音は足音か。同じ感覚で響き少しずつ大きくなる。
そちらに眼をやり、最大の警戒をする二人。
人一人が通れるだろう場所。斜めに上に段差が有り階段なのか小物入れなのか兼用か、その奥の壁が上下に割れた。
下の三分の一はそのまま倒れ、上の三分の二は更に真ん中で折り畳められて固定された。
そこから一人が出てくる。
「ほんとに女性かい」
「クロヤの野性度が侮れん」
「?、初めまして。ステアと申します。お願いがありまして、協力をして頂きたいのです」
パイロットスーツに身を包めたまま敬礼ではなく軽く頭を下げ優雅さと気品を覗かせる仕草で有った。
ヘルメットを被っていないステアはショートブロンドでカールした髪とグリーンの瞳を持つ色白の20才の女性だった。
彼女は思う。「なぜライトアップを?」と。
ズィンムの企みである。
一方、「ヨリイも何故演出を?」と思っていた。
クロヤに至っては「コイツ何を狙ってやがる?」と睨んでいた。
クロヤもヨリイも20才なのでここには同い年が三人揃った事になる。
『お嬢様、時間が迫っています』
「そうね」
「まだ誰かいるのか」
「AI?・・・話を聞かせてくれ」
「私はここではない地球から訪れた者と同じです。そして彼らを止める役目を持って辿り着きました。けれど、此処に有るだけが今回の成果です」
「俺らが君に害する存在だとは?」
「どちらにせよ、私は単独で帰還も出来ませんし、作戦の継続も厳しいのです」
「すまないクロヤ、後は君が話してくれ」
「ああ、じゃ、ステラさん。俺はクロヤ。隣のはヨリイ。正直俺たちはレジスタンスの中継ぎっぽい事をやっている。恐らく協力はマージィさんと連絡次第になると思う」
「有難うございます。クロヤさん、ヨリイさん。総指揮官のマージィさんと繋がりが取れたのは喜ばしいです」
「いや、状況としては余り良くなくってな。あの三本首は此方からの攻撃に全くの無傷なんだ」
「それはプロテクトですね。私の持ち込んだのはそれを突破できる物です」
「クロヤ、あっちで動きが有った。何かが飛び出したそうだ」
ヨリイは話の途中から通信機器の傍受をしていた。
この時、B・O・Sからハーケン・1が射出された。
『ジャミングは既に開始。それでも猶予は少ないです』
「これは?」
クロヤが右手の人差し指を上に向けながら訪ねる。
「サポートAIです、ズィンムと言います」
『よろしくお願いします。クロヤさんヨリイさん』
「ああ、クロヤだ。よろしく」
「ヨリイです。こちらこそ」
『お願いと言いますのは、お二方の車を使わせて欲しいのです』
「使えるなら構わない。ヨリイどうだ?」
「まあ、此処に落ちて来たのを見てますし。こちらも手詰まりなので都合が良いのですけど」
「良すぎるんでね」
「金銭面での見返りはできません。すみませんが・・・」
「良すぎるんだが、他に何も無いのも事実なんでさ。で。どうすればいい」
「細かい擦り合わせはズィンムから。申し訳ないのですが私では説明しきれませんので」
「ヨリイ。だそうだ」
「ここでふるのかい。見せてもらったのと関係するので間違いない?」
『はい。お二方の車体にコントロールユニットを取り付けます。
必要な改造もございますが。
後は地上から移動して然るべき位置で外装を転移して、二台に装着により作戦行動を行います』
「転移装置ね・・・実戦に参加か」
「お嫌ですか?クロヤさん」
「俺は構わない。ヨリイは婚約者がいるんでな。何かあったら・・・こ、ころされ・・・」
「クロヤ落ち着け」
ステラは思う。「なにこの漫才みたいなやり取りのふたり」と。
「落ち着いたかクロヤ。・・・作戦行動とは?」
『B・O・Sの防衛を突破して高く攻撃により活動停止に追い込みます』
「きびしいな」
「ふう。やっと落ち着けた。それでどんな機能が外装には有るんだ?」
「合体機能と人型への変形。
前と後が同じ形状で切り替えられます。
空中の移動も可能。
格闘戦、作業行動の他に。両腕部先端に射出系兵装と、両脚部にアンカー射出機能が有ります」
「ステアさん、目力が違う・・・」
「その系統か。ヨリイと違って俺は好きだが」
「す、すみません。つ・・・つい・・・は?今なんて」
「クロヤは人型のロボットで戦いたいってのが有って。病気みたいなもんだ」
「ステアさんとは話が合いそうだ」
『操縦方法が独特で、機体の移動と姿勢制御を別個で行います。思考操縦と従来の方式を併用させます』
「じゃあ」
「さっそく」
二人はステアを置いて作業に取り掛かるのであった。
次回、主人公メカ登場。出来る限りの無双をしますが、より強敵も出現。
異質なメカの活躍をどう描けるか?
ハーケンとメガサムソック&MTMの戦いもB・O・Sに対する前哨戦と同時に攻略の一手目。
第三話「飽くなき戦いを誰が望むのか」
長くなりました。
読了感謝です。
いずれ設定についての投稿もしないと。判り難くなってきていると思います。
面白く感じて頂けたら嬉しいです。
引き続き投稿しますのでよろしくお願いします。