表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

拝啓、お元気ですか?

作者: 世界


………………………




ここには何も無い…




誰も存在しない…




この物語の全ては空想の世界で起きた事




誰も知らない世界の、誰も知らない出来事




分かっているのは……




俺が体験したと言う事だけ…















1984年5月8日

俺がこの世に命を開いた日だ


他の皆と同じように大きな声で産声を上げたのだろう


当時は貧乏ながらも親兄弟と仲良くやっていた


状況が一変したのは俺が30歳の時だった


家に久々に帰ると家族が消えていた


電話番号も皆変わっていた


住んでいる筈の借家の家がポツン立ち

目を閉じて次の入居者を待っているのだった


あの日から俺の人生は変わった


家が無くなり、家族も無くなり

仕事も無くしただの無になったのだ


俺は目の前で起きている事実を受け入れ

何度も死のうとした


だが結局それは出来なかった


勇気もなかったが

「この先また良いことあるかもしれない」

そう頭の片隅で考えていたからかもしれない



途方に暮れながら外で時間が経つのを待つ

待っていても何も起きない…

起きる訳もない…







俺は1人となり、関東から愛知まで歩く事にした


とくに理由はないが、歩きたかったし


人の暖かさと触れ合いたかったのかもしれない






歩く旅の中で、この世とあの世の狭間でもがき苦しんだ


歩きながら死ねる所を探し


浜辺を歩き打ち上がったゴミの中からロープを探し


暇つぶしに釣りをする為に糸と針も探した


川沿いを歩いていた時、運良く手作り竿を発見し回収した

しかしこれを使う事は無かった


汗が垂れ流れ、虫に刺され毎日発狂したくなる


「神様、いるなら俺を殺してください」

そう何度お願いしただろうか…


結局その願いを聞き入れて貰えることはなかった


やはり自分でやるしかない…

しかし、公園なんかでやってしまうと子供達がもし発見したらトラウマになるだろう…

このゴミのような人間の死に様を、これから未来が明るい子供達に見せる訳にはいかない


助けてくれ…

助けてください…

何度叫ぼうが誰も助けてはくれない


公園で体を洗い

トイレの手洗いで喉とお腹を潤した

お金は無駄に使えない

お腹が空いても水を飲んで誤魔化す

しかし水でお腹が満たされることは無い




山道も沢山歩いた

道幅1m、横は崖になっている所もあった

箱根も登った

だが山道の辛さよりも、夜の寒さの方が身にこたえた



バス停で寝たが体が震える…


寒い…寒いが夏服しかない…


持ってる服を全て出し体に巻き付け

その上からビニールを被った


何も無い夜、

空は生憎の雨だった









漫画喫茶にもホテルには泊まらなかった


俺のベッドは公園のイスか

海の浜辺だった


夜風が気持ちいい

でも体がベトついた




お風呂は海水浴


場所を選ばないと沖に引き込まれる


海は好きだけど怖い


一体今まで何人の人間が海の藻屑となったのだろう


その人達は天国へ行けたのだろうか


それとも未だに海の中でもがき苦しんでいるのだろうか


前者である事を願いたい






昼頃、影で涼んでいると近くで車が止まった


「大丈夫ですか?」


たまに見回って危なっかしい旅人に声をかけているらしい


その人と1時間くらい話した


娘が東京に居ること

娘に会いに新幹線で向かう

元々消防士


その人に近くのコンビニまで送ってもらい

そして

「何でも好きなもの買っていいよ」


俺は酒が呑みたかった


ハイボールとパンとタバコを買ってもらった


連絡先は最後まで教えて貰えなかった






近くで太鼓の音が聞こえる


どうやらお祭りをやっているようだ


お祭りと言っても出店が立ち並ぶ訳でもない


御神輿を担ぎながら町を歩く御祭り






俺は参加出来なかった


参加する資格も無い


太鼓の音を聞きながら静岡をあとにした











とあるお城の公園で雨宿りしていた時


若い子と話す機会があった


その子は親と仲が悪く


いつも家を出て外に行けと追い出されているらしい


1時間話して、その子も大変な時を生きている事を知った




休日は親といたくないから図書館て毎日を過ごし

図書館開くまで城の公園で時間を潰す

友達と付き合うのは好きじゃない

世界を旅したい


そんな子だった



今まで色々な所に旅をした経験を話してあげたが

興奮した様子だった

それだけ旅に憧れているのだろう


最後はiPhoneの新品モバイル充電器をあげて別れた


あの子は今何をしているだろうか


親と離れる事は出来たのだろうか…


今となっては知る由もない






海には沢山野良猫がいる


彼(彼女)達はその過酷な生活の中で何を思っているのだろう


飼い主に捨てられたとしても

人を憎むこともなく

愛くるしい顔と鳴き声で近寄ってくる


お前達は幸せなのかい?

いつも空腹で

通行人に少ない餌をもらい寝て毎日を過ごす


お前達は幸せなのかい?







海沿いには豪華なマンションが建ち並んでいる所もある


俺はいつもその横を通りながら


皆には帰る家があって良いな……


そう呟いていた


そんな時は必ず泣きたくなる




悔しい…悔しい…悔しい…









どうしてこうなってしまったのだろうと


大雨に打たれながら泣きながら考えた事


酔っ払って


このまま死んでしまおうと考えた事


悪い事しか考えなかった

考えられなかった









名古屋で俺は仕事を探した


身分証なら免許証がある


やる気さえあれば寮でも何処でも入れる


ハローワークへ行き相談することにした






色々と話してみた


「家の事とか役所で相談してみてください」

そう言われた


その担当の方は役所に電話して今から行かせるなど段取りを取ってくれた


役所でケースワーカー(CW)と話した


今までの生活

ここまで来た方法

親との事


ケースワーカーは「大変でしたね」

そう言った


しかし俺の頭の中には「これからも大変なんですよ」

そんな考えが渦巻いていた


これから生活が楽になる訳でもない


きっとどっかの集団生活施設にでも入れられるのだろうと


俺はそこまでして生きていたくない


俺は施設入所を断った







その後

役所の椅子でボケーっと死んだ目で過ごしていると

声をかけられた


「大丈夫ですか? 私は○○○と言う施設を運営している丸山と言います」


施設か……



しかし話しを聞いてみると

マンションタイプの部屋で一人一部屋

3人くらいの少数共同生活

生活保護を受けながら生活をしてもらう


との事であった


生活保護……この歳で生活保護を受ける屈辱

申し訳ない…

こんなんで良いのだろうか…


色々な事を考えたが

このどん底から脱出するには今はそれしかない


そう思った







俺はそれから生活保護を受け


声をかけてくれた人と一緒に週1くらいで


生活保護者の管理(事務)をしていた




その生活は予想以上に大変で


保護者が家に来て1000円貸してくれなど言ってくる


そのまま返って来ない事はザラだった


そんな生活に嫌気が刺したのは入社4ヶ月目


もう生活保護を切って普通に働きたいと思い出る事にした










関東へ再び帰ってきて


新宿の自立支援センターに入った


ここでは働けば色々な待遇が受けられる


俺は無我夢中で仕事を探した


誰よりも早く


誰よりも強く生きるために




そして仕事はすぐに見つかった


場所は新宿


仕事内容はデイケア


介護職である








俺は浮かれた


仕事初めて良いと許可が出てから

僅か2日で仕事を決めた人間は居ないからだ


自立支援センターでは外でも飲酒は禁止されている


しかし俺は呑んでしまった


それも尋常ではない程に


そして気付いた時には逮捕されていた


酩酊状態のままコンビニでお菓子を食べていたらしい……






何度か検事と合い

検事は俺に言った


「ちょっと1回医者に調べてもらいましょう」


俺はサインをし承諾した


その数日後

検察署内で医者と話しをした



今までアルコールで失敗した事

家族親戚に精神病の人はいたかどうか




問診が終わりそのまま警察署へ帰った


結果が出たのはその2日後


検察署で検察官と話した


「うーん、、アルコール依存症の疑いがあるから入院してみない?」




え…………




まさかそんな……




いや、考えれば確かにそのような感じもしないわけでもなかった


入院………


正直入院はしたくなかったが

このまま出ても行くところなんて無い


俺は検事の言う通りにする事にした






不起訴となり警察署から刑事と検察署の職員と共に

病院へと向かう


病院は都内の精神病院だった




あれ…………?


アルコール依存症の治療って精神科でできるのかな…?




入院初日


とても怖かった


廊下を大声で歌いながらひたすら歩き続ける人が数人


永遠と英語を話し続けている人が数人


誰もいないのに前に座っている誰かと話している人




取り敢えず不衛生でトイレの便座には便が必ず付いていた


廊下にも便が落ちていたり漏らしたまま廊下を歩く人など

地獄のような生活だった



結局その病院ではアルコール依存症治療をすることも無く3ヶ月我慢して退院となった





実はその病院で看護師の女の子と知り合って退院日前日に連絡先を交換した


顔が凄い山本彩に似てて可愛かった

動きは猫みたいな

声も可愛くいつも癒されていた



入院中もハグしたりこっそり手繋いでたりしてたんだが…


退院して何度か遊んでるうちに


彼氏がいる事を知り有無を言わせないうちに連絡先を消し身を引いた


好きになる前に知りたかったな


ほんと辛くて何日も思い悩んだ


でも俺は面倒な事が嫌いだ


相手の彼氏から電話がかかってきて文句を言われるくらいなら連絡先を消した方が良い


そんな事もあり、結局はまた1人になった









入院は何だったんだろうか









正直なんの意味もなかった………








この先どうすれば………?












もうダメ……








疲れた………







お別れだ…






今の自分との決別



















そして俺は今





新しく生まれ変わる為に





再出発を始めている





















決別した自分へ










お元気ですか?










長い間ありがとう。









さようなら。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ