【あれから】
完結から、数ヵ月後のお話。
芹菜視点です。
あれから――。
あれから、数ヶ月経った。
私の日常は至って、穏やか。
と、――言いたいのに…。
「伊藤遼太郎!!今日は、私が芹菜と一緒に帰るんだから!!!」 「ふざけんな、早川!!昨日だって、芹菜と帰っただろうが!!!」
今にも、取っ組み合いの喧嘩でも始めそうな二人。
伊藤遼太郎――晴れて、私の彼氏となった人。
早川 祥子――私の良き理解者、大親友。
自覚は無かったものの、入学早々、あの怪我が原因で私と遼太郎の関係がこのクラスの空気をピリピリとしたものにしていた。
それが、きちんと分かり合い遼太郎と付き合うことになり、クラスの雰囲気もほのぼのとしたものに変わったと思われた矢先、私の彼と私の親友が事有る毎に衝突を繰り返す。
「もうっ!!いい加減にしてよ!!遼太郎も祥子ちゃんも!!」
教室には、自宅へ、部活へと向かう者でほとんど生徒は居ない。
私たちの声だけが響いている。
「だって!!伊藤遼太郎が、私の許可無く芹菜の事を独り占めするのは許せない!!」
「だから!!俺は芹菜の彼氏なんだから――って、何でお前の許可が要るんだよ!!」
「誰が、彼氏だって〜?!!友達でしょう?単なるクラスメートでしょうが!!」
「それが、昨日から、友達から彼氏になったんだよ!」
……あ〜、言っちゃったよ…、バカ遼太郎。
確かに、あの時、私は“友達から”って言ったよ。
昨夜、公園で話した時“彼氏彼女”として付き合おうって事になったよ。
でも、今、どうして、それを、祥子ちゃんに言っちゃうかな〜?
あとで、私からタイミング見て、話すって言ったじゃん。
もう、聞くに堪えられない罵声が飛び交う教室に、一筋に光が差し込んだ。
その光の主――それは、伊東慧くん。
私にそっと耳打ちしてくれる。
それは、私だけが使える特別の魔法の言葉を教えてくれる。
「北條さん。取り合えず、ここは僕に任せて」
「慧くん、ありがとう」
「いいえ。でも、相変わらずだね、遼も早川さんも」
こんな風に、いつも助けてくれる慧くん。
なかなか二人の間に入って仲裁出来ない私の代わりを担ってくれる。
「そろそろ、ストップ!遼も早川さんも!じゃないと、呆れてるよ、北條さんが!」
慧くんの言葉にピタっと動きを止める二人。
その反応の速さは、きっと誰にも真似なんて出来ないと思う。
「芹菜!私たち、ずっと親友でしょう!!!」
ガバっと抱きつかれる。
「芹菜!俺たち、ずっと一緒だからな!!」
ガシっと抱きつかれる。
苦しい…――。
二人に抱き付かれて息が出来なくて苦しい――というものあるけど…。
こんな毎日がこれからずっと続くのかと思うと、かなり心配。
「仲良く出来ないの?遼太郎?祥子ちゃん?」
「出来ない!!」
「出来るか!!」
左右から同時に否定の返事をされてしまう。
「息がピったりだね」
慧くんが、にこっと笑って一人緩い空気を醸し出している。
結局、またこの二人は慧くんの言葉に素早く反応する。
遼太郎が“わーわーわー”騒いで、祥子ちゃんが“きーきーきー”と喚く。
そうだ!さっき、慧くんに教えてもらった魔法の言葉を!
出し惜しみなんてせず、使っちゃえ!!
「もう!!二人とも、大嫌いっ!!!」
一緒に帰ろう、と私は慧くんの手を取って、教室を出て行く。
「芹菜!イヤ!嫌わないで〜〜っ!!!」
「芹菜!大嫌いなんて言うな〜っ!!!」
遼太郎と祥子ちゃんの情けない叫びが響き渡る。
“大嫌い”
魔法の言葉は、二人には十分効果が有ったみたい。
しばらくは、私と遼太郎と祥子ちゃんと慧くんと――。
4人で仲良く――って、出来るかな?