【ここから】
こちらのお話は
『その全てを、無かった事に』のサイドストリーです。
遊園地デートの観覧車。その時の遼太郎と祥子。
祥子視点のお話です。
ここは、夕焼け色に染まる遊園地。
「一体、どういうつもりなんだよっ!」
私とゴンドラに乗る羽目になった伊藤遼太郎は、不機嫌オーラ全開。
そりゃ、そうだ。
初デートを邪魔してるのだから――でも…。
「どうもこうも無いわよ!」
私――早川祥子は腕を組んで、ドカッと座り睨んでくる伊藤遼太郎に対し、私も同じように、腕を組んで、ドカッと座る。
私達のゴンドラだけ、左右に大きく揺れる。
次のゴンドラに芹菜と伊東慧が乗る姿を窓越しに確認して、少し肩の力を抜く。
「全く、伊藤遼太郎!あんたも、ややこしい事してくれたわね!」
「な、何だよ!いきなり」
伊藤遼太郎は、私が何を言いたいのが分かってるのか…、分が悪いと思っているのか、スッと顔を逸らし目を合わそうとしない。
「この私が、あの日伊東慧に教室に行くように約束させたのに!」
「それは…」
「まあ、あんたの気持ちも分からなくもないけどさ」
「………」
「芹菜だって、まだ気持ちが宙に浮いたままなんだよ」
「………」
「あの子が、誰を想っているのか知ってるでしょう?」
「……」
伊藤遼太郎は小さく頷いた。
知らないはずがない。
いつも、どんな時もこいつは芹菜を見ていたのを私は知ってる。
まぁ、気付いてないのは芹菜だけで…。
クラスメートの多くは、伊藤遼太郎と北條芹菜がうまくいけばいいな〜と思っていた訳で…。
私は別にどっちでも。大切な親友の芹菜が幸せなら。
昇り続けてたゴンドラが、今度はゆっくりと降りていく。
太陽が沈んでいく様子を見つめる。
「はぁ〜、私が男だったらな〜。伊藤遼太郎も伊東慧も抹殺してやるのにぃ!」
「…おい、早川」
「芹菜の事、本気じゃないなら芹菜の視界から消えな!伊藤遼太郎!」
と言って、イシシシっと笑うと――「早川って、悪魔だ」と返される。
私は、芹菜の為なら悪魔にでもなれるのよ、伊藤遼太郎クン。
「まあ、いつまでもこのまま付き合うのも無理な話」
「…分かってるよっ!」
ちょうど、ゴンドラが一周したのか、係りの人がドアを開けてくれる。
「バシッと決めなさいよ!」
私は、立ち上がる伊藤遼太郎の背中にを入れる。
軽く叩いたつもりだったのに痛かったのか、「いでぇ〜!」とちょっぴり涙を浮かべてる。
あぁ、悪い悪い!
思わず、本気が出たわ。
「どうせなら、思い切り振られてしまえ」
「………」
「当たって、砕け散れ!」
「……」
「燃え尽きて、灰になれ!」
「――面白がってるだろ…、早川」
「当然でしょう!」
茜色の空を背に、芹菜と伊東慧がゴンドラから手を繋いで降りて来る。
そんな二人の様子を伊藤遼太郎は、すっと目を細め、ただ静かに見つめている。
まぁ、私の出番はこれで終わり。
ここから――。
ここからは、芹菜と伊藤遼太郎の二人の物語。