【12】
係りの人がゴンドラのドアを開けてくれる。
もう、着いたんだ。
先に伊東くんが降りて、私に手を差し出してくる。
こんな風にさり気ない優しさが心に染みてくる。
その手を掴んだ時、私は溢れる想いを感じてしまう。
言わないと!
今日はその為に、こんな所まで来たんだから。
先に降りて私達を待っていてくれている、祥子ちゃんと遼太郎の姿が出口の先に居るのが見える。
でも、今の私には、夕焼け色に染まる伊東くんと彼の周りの世界しか、見えない。
「ずっと、あなたの事が――」
あれ?
どうして?
この先の言葉が出て来ない。
あれだけ、意を決してきたのに…。
確かに想いが溢れてきて…、溢れてきて…。
溢れきって、この身体から綺麗に消えてしまった…?
ただ、分かる事は、言ってしまったら、もう元には戻せないという事。
私は、こんなにも伊東くんの事が好き。好きだったのに――。
「北條さん?」
「――ううん、何でも、何でも無いよ」
そう、好き…だったんだ――。
取った彼の手を放し「ありがとう」とお礼の言葉を口にしていた。
人生、何度でもやり直しは出来ると言う人も居るけど、過去の出来事を無かった事になんて出来る人は居ない。
起こってしまった出来事は、例え神様でも変える事は不可能。
だから、遼太郎が私に思い切りぶつかって腕を怪我した事も。
相手をきちんと確かめずに告白してしまった事も。
その告白を間違いだと言えず、ここまで来てしまった事も。
今となっては、変える事の出来ない過去のもの。
遊園地のダブルデートから、数日経った。
放課後、私は遼太郎を呼び出した。
遼太郎も話があるって言ってたから、丁度良い。
あの日のように、下校時間が迫っていて、校内放送が流れる中、教室に二人。
「あのさ、芹菜…」
先に話すのは、遼太郎。
「おまえの好きなヤツって…、慧だろ?」
「…そうだけど」
まぁ、普通、分かると思う。
先日の遊園地の私の様子とか、見てれば…。
そして、あの時ここで会う約束してたのは、伊東くんだったんだから。
「その時、間違いと気が付かなくて、俺、完全に舞い上がってた。その、つい、嬉しく…っ…」
「私も、舞い上がってた。慌てて相手を間違えて、告白なんかしたぐらいだし」
遼太郎は瞳を伏せ、掠れた声で話す。
「別れようか…、って、別れるっていうのも変だよな…」
「うん、そうだね」
「だけど、その、俺…、芹菜の事――」
――素直に、
「友達からなら、スタートしても良いけど」
「え?」
「ダメ…、かな?」
「あ、いや、ダメって事は…、無い!無い!」
もう一度、この日、この場所から、告白のやり直し。
今度は、落ちついて相手の顔を見て、もっと知りたいと思うあなたの事を。
だから、――その全てを、無かった事に。
END……?
――後日。
「ねぇ?いつから私の事好きなの?」
「え?」
「いつから?って訊いてるの、言いなさいよ!」
「あ、だから…、それは…」
「ちゃんと遼太郎の口から聞きたいんだけど」
「…っ!!」
「あ、こら!逃げるな〜!」
男の癖によく喋るのに、肝心な言葉は言えないの?
今度は、私が遼太郎に纏わり付いてやるんだから、ね!
END
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
このお話は、これで完結となりました。
感想などありましたらお送り下さい。
あと、おまけのお話を引き続きUPしてます。
こちらも良ければ、読んで下さい。
宜しくお願いします。
相澤塔子