奪われた夢
「明人、降りなさい。学校に着いたぞ」
父に言われるが木村 明人は無視して窓を見る。
「降りなさい。遅刻する」
「……分かったよ」
渋々シートベルトを外し、嫌々車から降りる。
「荷物持てるか?」
「持てる。馬鹿にすんじゃねえ」
木村は右腕でスポーツ用のショルダーバックに首を通して肩にかける。
そして点字ブロックを踏みつけて校舎を目指す。
「……チッ」
校舎の玄関に生徒が居る。
正直言って邪魔だ。
足が悪そうな奴、目が悪そうな奴と親、もう一人は……? まあ、何かの障害者だ。
何かヘラヘラ笑っててキモい。ウザい。イラつく。
「障害者なんて、変な奴らだ」
他人を貶すが、その言葉は木村に返る。
「どうして……俺がこんな学校に」
《私立白鷺学園》に通う子は障害のある子たちだ。
つまり、木村も障害を持った生徒だった。
半年前までは障害とは縁のない丈夫に育った野球少年だった。
だけど交通事故が彼の夢を奪った。
飲酒運転の車に跳ねられた。
それだけならまだ木村は入院するぐらいで大丈夫だった。
だが、運転手は人を跳ねてしまった混乱と逮捕されるという恐怖で止まるどころか加速した。
木村の背負っているスポーツバックがミラーに引っ掛かっていることにも気付かず。
運転手が冷静になって車を止めたときには木村は数百メートルもアスファルトに引き摺られていた。
すぐに救急車が来て病院で手術をし、木村は一命をとりとめた。
両親は木村が目覚めたことに泣くほど喜んでくれた。
だが、木村には絶望しかなかった。
左の肘から先が無くなっていた。
そのショックで学校に行かなくなった。
受験もしなかった。だから進路も決まらない。
本当なら野球強豪校を目指していたはずなのに。
木村の夢は奪われた。