温もり
「すみませ~ん」
橘の母が声をかけると前を歩いていた二人の女生徒が振り返る。
足の不自由な子と、その子を支える子。
橘は恥ずかしくなり母の後ろに隠れてしまう。
「もう、瑞希ったら。えと、一年生の教室はどこかしら?」
二人の女生徒は初めはポカーンとしていたが何かに気付いて微笑む。
「新入生だったんですね。教室なら私たちと一緒ですから案内しますよ」
足の不自由な子を支えていたポニーテールの子が答える。
「あら! じゃあ二人も一年生なの?」
「いえ、私たちは二年です。まだ人数が少ないので一年も二年も一つのクラスなんです」
「そうなの。大胆なことをするのね。田舎の学校みたい」
「そうですね」
母とクスクスと笑う女の子。
橘は不思議そうに女の子に顔を向ける。
「よろしくね!」
「ふぇ!?」
急に声をかけられて橘の肩が跳ね上がる。
「私は水瀬 優。二年生だけど教室も同じだから堅くならなくて良いからね。隣の子は同じ二年生の須藤 暁美さん。少し足が不自由だから困ってたら声をかけてあげて。反対に君が困ってたら須藤さんを頼ると良いよ。面倒見の良い優しい人だから」
「別に私のことは良いですのに」
須藤は恥ずかしげに頬を染める。
「今は立ってるから良いけど。車椅子だったら互いに危ないでしょ? この子は目が見えないみたいだし、ぶつかっちゃうかもよ」
橘は驚いた。まだ自己紹介もしてないのに障害を分かってくれている水瀬に。
「君の名前は?」
「……橘…………瑞希、です」
緊張していたが、水瀬には言えた。
「橘さんだね。これからよろしくね! 握手大丈夫?」
「は、はい」
橘は母の服を握っていた左手を出す。
その手が温もりに包まれた。
「?」
「ほら、瑞希行くわよ」
「う、うん」
今の手ーー女の子?