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女性のために犯す罪は無罪にして欲しい

 ベステン局長からクビを宣告された。

 頭の中が整理しきれず、呆然と立ち尽くす。

「クルト君、ごめんね。あたしのせいだね……」

「いや、サイカさんは悪くないですよ。悪いのはあのイゴッゾっていう冒険者ですよ」


 消えてしまいそうな声で謝るサイカ。そういえばサイカはイゴッゾとの約束をどうするつもりだろうか? なぜ、サイカはそこまでして女の子を助けたいと思ったんだろう?

「サイカさんはなんで、その女の子のためにそこまでするんですか?」

 考えていた疑問が自然と口からこぼれてしまい、サイカに聞いてしまった。


 サイカは少し、難しい顔をすると、「クルト君にならいいか」といい、こちらを向く。


「私ね。日本では、生まれてからずっと病気だったんだ」

 生まれてからずっと病気だった。サイカが打ち明けてくれた話を真摯(しんし)に耳をかたむける。


頚髄(けいずい)にある神経がおかしくて、首から下がまったく動かせなかったんだ。そんな私でも、両親はしっかり育ててくれてさ。私を車いすに乗せて色々なところに連れて行ってくれた。裕福な家庭ではなかったのに無理しちゃってさ」

 サイカはなつかしむように、悲しげな顔を浮かべる。


「中学校なんてほとんど行けなかったのに卒業式の写真を撮りに行くことになってね。美容師の専門学校に通っていたお姉ちゃんが髪の毛を切ってくれたんだ。それが今の髪型なんだけどね」

 ショートポニーテールの毛先を、愛おしそうになでながら微笑む。


「十六歳くらいの時にね、急に症状が悪化したの。私は聞かされていなかったけど、たぶんお医者さんからもう長くないと言われてたんだと思う。日ごとに弱っていく私に両親は振袖を買ってきて、『成人式に着ようね! ぜったいに彩華に似合うよ』って言うんだ。その振袖を着ることはなかったけど、私に生きていてほしいって気持ちがいっぱいいっぱい伝わってきて、本当にうれしかった。」


 ……俺にはサイカがどんな思いだったのかはわからない。何不自由なく育ってきた俺にとってサイカの人生は想像もつかないものなのだ。薄っぺらい言葉で理解したというには、俺の人生はあまりに浅学寡聞だ。


「良い家族だったんですね」

「うん! とっても良い家族だった」

 俺のあたりさわりのない返事に、サイカはおだやかな表情で答える。


「でもね、同時に辛かったんだよ。たくさん愛されて、私にいろんなものくれた! でも……どんなにがんばっても私は何もできないんだよ! 何も……私に元気になって欲しいって思ってくれても、私にはそれすらできなくて、できないことが本当に辛い……」


 サイカは辛い思い出に耐えるように下を向いていたが、話が終わり一呼吸置くと、力強くこちらにを見る。

「だから、枯葉病で苦しんでいるあの子のお姉さんを私は絶対に助けたい。たとえこの身がどうなろうとも、私のような思いをする人を見たくない!」


 決意は固い。軽はずみな言葉でとめることは許されない。そんなことをしたらサイカとの関係は壊れてしまうと心が理解している。

「サイカさんの気持ちはわかりました。でも、まだ時間はあります! 本当にこの街に薬草がないかどうか調べてきます!」

「ありがとうクルト君、うん! 私も知り合い当たってみることにするよ」

 俺は薬草を見つけるために、ギルドを後にした。


 薬草を探すために向かった場所、それは先程、仕事で荷物を取りに行った道具屋だ。

 なぜなら、ここくらいしか居場所がわかる知り合いはいない。エテルナはどこにいるかわからないし。

 扉を開け中に入ると、ツンツン頭の金髪をゆらし、カツジが棚の整理をしていた。

「らっしゃい! ってクルトかよ! どうした商品に不備でもあってきたのか?」

 俺はカツジにこれまでの経緯(いきさつ)を話す。


「マジかよ! クルトお前って男レベル五だったんだな!」

「男レベル五ってなんだよ」

「いざという時、拳で語れる男のことだぜ!」

 ちなみに男レベル四は、白を黒って言いきれる男のことらしい。――うん、意味が分からん。


「おっと、話がそれたな! 本題に入ろう、枯葉病の薬草だがこの店にはない。というよりこの街にないと思うぞ。一週間前に旅の商人がきて、故郷が枯葉病だとか言って全部買って行ったからなぁ。他の店も同じだと思うぞ! それにここ数日で、バンゴールの街も枯葉病が少し流行りだした。とてもじゃないが入手は無理だ」


 カツジは薬草の入手は現実的じゃないという。俺も同じ意見だ。

「イゴッゾは持っているらしいし、盗みに行くか」

「クルトそれは犯罪だぞ! だが、俺は好きだぜそういうの! よし、俺も手伝うぜ!」

 冗談半分で言った俺の言葉をカツジは真剣に受け取り、意気込んでいる。


 俺が冗談だと伝えようとしたとき、店の扉が音を立てた。

「クルト殿ではないか」

「あっ、ジョーさん」

 俺とジョーは軽く会釈すると、ジョーにどうかしたのかと聞かれたので、薬草のこと、サイカのこと、イゴッゾのことを話した。

「……そんなことが。そのイゴッゾという男、なんとも卑劣な!」

「だろ! ジョーさんだっけ? 今から俺とクルトでイゴッゾの屋敷に薬草を盗みに行くんだが、どうだい! あんたも一緒にいかねぇか?」

 カツジがジョーを盗みの仲間へ誘う。おい、ちょっと待て! なんで行くことが確定してんだよ! しかも、今からって俺聞いてないんですけど……


 いや、これは盗みをやめさせるためのチャンスかもしれない。少し話した感じだが、ジョーは真面目な男だ。俺たちの犯罪行為を阻止しようとするはず! それに全力で便乗してやる。

「……及ばずながら拙者も助力しよう。以前の拙者なら犯罪行為はやめるように言っていただろうが、クルト殿と話して、拙者はサイカ殿に好意をもっていることがわかった。サイカ殿のためなら拙者、この手を罪に染める覚悟あり」

 以前の拙者帰ってこいよ! 俺の「犯罪やめようプラン」が一瞬で崩壊したじゃないか! なんか二人とも意気投合してやる気満々なんだけど。


「よーし! それじゃクルト窃盗団の結成を祝って乾杯だー!!」

 カツジがどこからともなくビンを取り出し、俺とジョーへと配る。

「ちょっと待て! なんで俺の名前!?」

「こういうのは普通、言い出しっぺがリーダーだろ!」

「うむ、拙者も異論はない」


 かくして、クルト窃盗団はイゴッゾの屋敷へと向かうのであった。

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