ギルド見学しました。
ギルドについた俺とエテルナは、扉をあけて中へと進む。
ギルドとは、冒険者が掲示板に張られたクエストを受付窓口で受注し、遂行し、報酬を得るところであり、新しく冒険者を目指す人が登録したり、冒険者同士が親睦を深めるために飲食のできる酒場が併設しており、荒くれ者が集まる場所である。
……と思っていたのだが、実際には少し違った。
簡易的に薄い木の板で仕切られたスペースがいくつかあり、その中で冒険者とギルド職員と思われる人たちが話している。飲食に関しては、食事の方はやっておらず、飲み物もノンアルコールのみの取り扱いのようだ。
居酒屋のようなワイワイとする場所はなく、病院の待合室みたいなところに何人かの冒険者が座っている。
「なんか俺の想像していたギルドと少し違うイメージなんだけど……」
エテルナに俺が思っていたギルドのイメージを伝えると。
「一昔前はそんな感じだったんですよ。けれど、その方法だと冒険者の死亡率が高かったのです。そこで現在は冒険者が自由にクエストを受注するのではなく、担当ギルド職員と相談して受けるクエストを決めていきます。この方法に変えてからは、冒険者の死亡率は低下しました。冒険者と担当ギルド職員が二人三脚で高ランクの冒険者を目指すのです。ですのでクエスト関連以外にも、昇級試験を受けることや、パーティーメンバーを作ることなど、ギルド職員の仕事は多岐にわたります」
それを聞いた俺は少しめんどくさそうだなと思った。
しばらくすると、奥の扉から老人とは思えないほどの体つきで、ピシッとしたスーツのようなギルドの制服の上からでも確認できるほど鍛えられており、短く整えられた白髪が貫禄を放つ男性が俺たちの前に歩いてきた。
「エテルナよ、こいつが話していたスズキクルトか?」
老人の野太い声にエテルナは頷く。
「クルトさん、こちらの方はベステン局長です。このギルドの責任者ですので覚えておいてくださいね」
俺が局長に一礼をすると、ベステン局長はキョロキョロと当たりを見渡し。
「サイカ! お前がこの新人の面倒を見てやれ! お前と同じニッポンジンだ!」
薄い木で仕切られたブースから職員用の部屋に歩いている途中の女性は、ベステン局長の声に一瞬ビクッと肩を引き上げて立ち止まると、ベステン局長に返事をし、俺の近くまで歩いてきた。
「ちょっと荷物を置いてくるから、ここで待っててね」
そう俺に告げると、持っていた書類をしっかりと胸に抱き、職員用の部屋に駆けていった。ベステン局長も俺の役割は終わったと言わんばかりにその場を立ち去っていく。
「とりあえず、教育係も決まったみたいだし、私はこれで帰るね。この街にはよく遊びに来るからその時はよろしくね」
エテルナは手を軽く振りながらギルドの出口へと向かって歩いていく。
「じゃあ、とりあえずブースのところで話そうか」
サイカと呼ばれていたギルド職員に案内され、ブースへと向かう。
サイカは明るめに染められたブラウンの髪を括っており、解くと肩にわずかに届かないくらいの長さだと思うので、彼女の髪形はショートポニーテールというものだろう。ぴょこぴょこと小さく跳ねる毛先が小動物みたいで愛らしい。整った顔立ちがしっかりと見えるのでベストの髪形のチョイスだと心の中で称賛する。
ブースにつくとサイカは俺に席に座るように促し、俺が座るとサイカも席に腰を下ろした。
「初めまして! 川島彩華といいます。えっと……クルト君だっけ? 君と同じ日本出身だから仲良くしてね」
「はい、鈴木来人といいます。こちらこそよろしくお願いします」
「よろしくお願いされました!それじゃ早速だけど、クルト君のこれからのことを説明するね」
サイカの説明によると俺の最初の目標は担当する冒険者を持つことらしい。
ギルドの職員の収入は日払いであり、固定給は二千ルナ、一ルナは日本円で一円と同じ価値らしくわかりやすくて助かった。そして変動給として担当冒険者がクエストを達成すると、依頼料の一割が給料に加算される仕組みだ。ちなみに依頼料の内訳は、冒険者に三割、担当職員に一割、ギルドに六割に振り分けられる。ギルドの取り分が多すぎると思ったが、そこから職員の固定給が支払われたり、設備の維持、新人冒険者へのサポート、ギルドの昇級試験などの費用を捻出しているので、不満の声はないらしい。
この仕事で大切なことは冒険者との信頼関係らしく、信頼関係を築けないと、冒険者から担当替えを希望されることもあり、そうすると収入は大幅に減少してしまう。だが収入の減少を恐れて冒険者の言いなりになってしまう事もあるらしく、そうならないためにも普段からの行いが大切であり、複数の冒険者を担当し、担当替えを希望されても生活ができるだけの収入を確保する必要があるようだ。
ちなみに固定給の二千ルナがあれば、ギルドの寮で生活は送れるらしい。
しかし、住み心地はあまりよくないらしく、サイカは一ヵ月間そこで暮らしていたが、風呂とトイレは共用、壁も薄いため、横の部屋の声が聞こえてくるみたいだ。
良かったことは食事が出るところだったらしく、そんなにおいしくないのだが、仕事で遅くなった時に、自分で用意しなくてもご飯が食べれるという事はもの凄く助かるらしい。とはいうものの、住み心地が悪いおかげで早く抜け出したい気持ちから、仕事に精が出たようで、今ではそれなりの部屋に住めるくらいの収入はあるらしい。
……もの凄くブラックな仕事な気がしてするのは気のせいだろうか?
担当冒険者を持てなかった場合の生活は悲惨、例え担当を持てたとしてもその冒険者が高額の依頼をこなせなければ収入は満足にない。
「だ、大丈夫だよ! 最初は冒険者も優先して紹介するし、わからないことがあったら私もサポートするからさ!」
俺が不安になっているのを悟ってくれたのか、サイカは元気つけるように声をかけてくれた。
「とりあえず、もう夕方だし担当冒険者を探すのは明日にしよっか! 今日はもう仕事もないしギルドの寮に案内するよ」
そう言うとサイカは机に手をつき、椅子から腰をあげた。
サイカに案内されたギルドの寮は3階建ての四角い建物だった。
中に入ってすぐに調理場があり、食べ物の香りを嗅ぐと、何も食べていないことを思い出し、急激に食事をしたい衝動に駆られる。
「食事は頼んでから五分くらいで作ってくれるよ。注文するときは名前と部屋番号を言えば大丈夫。食事は自分の部屋で食べて、食べ終わったらそこの水場につけておくこと」
空腹を察したのか、サイカが調理場の利用の仕方を教えてくれた。
部屋についたらまずは食事にしよう。
調理場を抜けた廊下の左側には、風呂場とトイレがあった。
風呂場は時間帯ごとに男女交代で使用するようなので時間厳守とのことだ。
廊下を進むとそこは居住スペースとなっていて、大量のドアがあり、一部屋一部屋が非常に狭いことがよくわかる。そして階段を上り、俺が住むことになる三階一番奥の扉に手をかける。
部屋の中は2畳ほどの空間に公園のベンチくらいの大きさのベットがあり、枕と薄いブランケットのような布が置いてある。壁にはランタンが下げられており、その下の小さな棚の上に数本の蝋燭が置かれている。
ランタンを使用するときは一階の調理場の種火を利用するようだ。
「それじゃあ、私は帰るからまた明日ね!」
そういってサイカは寮から去っていった。
サイカが寮から去ってから、まずは空腹を満たすために、調理場で食事を受け取った。
茶碗一杯のお米、何かわからない肉の焼き物が二切れに野菜が盛り付けられているものをお盆に乗せ、コップの水を波立ながら部屋へと向かう。
食事は可もなく不可もなく、美味しいと言えるものではないが、不味くもない。肉は少し硬かった。
「よし!!」
俺は声を発し、気持ちを切り替える。
「状況を整理しないとな、これからのことも」
まずは、目標だ。エテルナが言っていた、記憶を持って日本に生まれ変わること、これがゴールだ。
そのために二十歳まで、この世界のギルドで働く。ギルドの仕事は正直めんどくさそうだ。しかし、せっかく異世界に来たのだ。この世界を満喫したい。サイカの話では、観光は絶対にしておくべきとのこと。地球では決して見ることのできない景色がたくさんあるらしい。俺も興味を惹かれるし、何より異世界を満喫してる感じがする。
しかし、観光するためにはお金がいる。という事はめんどくさいと思っても、ギルドの仕事はきちんとしなけらばならないということだ。
「楽しむためには、働かないといけない」と担任の先生も言っていたな。
高校の担任の顔が浮かんだ。そのあと先生は「だから働かなくても楽しめる君たちが妬ましい」と言っていたけど、教師が生徒に言う言葉じゃないと思うんだけどなぁ。
「まっ、異世界満喫するために働きますか」
そう独り言をつぶやくと明日の仕事に備えるため、瞳を閉じる。