やっぱりギルド職員になってしまった
――やわらかい。
どうやら俺はベットで眠っていたようだ。
先に寝た寮のベットとは比べ物にならない寝心地の良さだ。
俺は右へ左へと体を揺らし、ふんわりとしたベットの感触を体全体で堪能する。
いや、ちょっと待て。ここはどこだ?
ベットから体を起こし辺りを確認する。
窓の外から差し込んでくる日差し。どうやら一晩眠ってしまったようだ。
部屋には低めのタンスに机、小さめの本棚。ベットから見えるそれらの家具はほこりが積もることなく、清潔感があふれている。
知らない部屋だったが、ベットのとなりで椅子に腰を掛け、コクリコクリと首を揺らしているのは、見知った女性。その首の揺れに合わせて、トレードマークでもある短いポニーテールも同じように揺れる。
「ん、おはよう、クルト君。よかったぁ……」
俺が起きたことに気がついたサイカは目を覚ます。
あまり眠れていないのだろうか? 顔には疲労の色が濃く表れている。しかし、疲れた表情の中に安堵した雰囲気を感じられる。
イゴッゾ邸で意識を失ったあと、カツジとジョーが俺をギルドまで運んできてくれたらしい。二人から事のあらましを聞いたサイカが看病するために、家まで運んでもらったようだ。
持ち帰った枯葉病の薬草はギルドに届けられ、早急に枯葉病の発病者たちへと配られた。カレルカレロの花も焼き払われ、街に忍びよっていた危機は立ち去ったのだ。
イゴッゾは現在、拘置所に入っており、その裁判の証人として俺が呼ばれている。
「ギルドに来ていた女の子のお姉ちゃんも無事、回復に向かっているみたいだよ」
小さく微笑むサイカ。自分以外の誰かのために本気で喜ぶ笑顔は、最高にかっこいいと思う。
その笑顔を見るだけで、苦労が報われたと断言できる。
「さて、裁判に行く前にご飯にしようか。お腹空いているでしょ?」
待っててね。とサイカは言い、キッチンへと向かう。
出てきた料理は和食風だった。ノスタルジックな味つけに、五臓六腑が歓喜の声をあげた。
食事を終えた俺は裁判で証言をするためにギルドへと向かう。
裁判での証言は滞りなく行われた。
俺が眠っている間に、事件の全貌をカツジとジョーがすでに話していたので、ギルドの地下にある真実の間でいくつかの質問に「はい」と答えるだけだった。真偽のほどは、ギルド職員に着用が義務づけられている腕輪が証明してくれる。嘘をつくと赤い光を放つらしい。
俺の証言により、イゴッゾは罪人として牢屋へと送られることが確定した。
真実の間から階段を登り、ギルドのロビーに戻るとサイカとカツジとジョーの三人が待っていた。
「無事に証言は終わったよ。さてと、これからどうしようかな」
「ん? これから?」
俺の言葉にサイカは首をかしげる。
「いや、俺、ここをクビになったじゃないですか、どうやって生きていこうかって話ですよ」
「じゃあ、俺と一緒に道具屋で見習いやらないか!? 店長に聞いといてやるぜ!」
「いっそのこと、冒険者になってみては? 拙者が修行をつけますぞ」
道具屋に冒険者かぁ、冒険者のほうが憧れるけど、エテルナがいうには十年くらい訓練が必要みたいだしなぁ、現実的に道具屋で働くべきなのか……
「クルト君はクビじゃないよ」
「でも、ベステン局長がクビって……」
「あれは嘘だって」
嘘って……それが嘘だろ。手柄を立てたから取り消しただけだと思う。
「本当だよ! 本気でクビにするなら、その場で腕輪を外しているはずだよ」
俺がベステン局長を疑っているのを察したのだろう。サイカが言葉を付け足す。
「だから、これからもよろしくね」
サイカは明るく言い放つ。誰かに認められることは、そこに居場所ができることだと思う。俺はサイカに認められているのだと心から実感する。
だから道具屋や冒険者など選べる中で――
やっぱり、ギルド職員になってしまった。