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悪辣貴族に正義の鉄槌を

「貴様は昼間のギルド職員ではないか、こんなところで何をしている?」

「これはこっちのセリフだ! なんだこれは!」

 イゴッゾの質問に答えることなく、カレルカレロの花を指さす。しかし、イゴッゾは慌てるようすもなく、口をひらく。


「なぁに、ただのビジネスだ。カレルカレロの花粉を街中にばら撒く、枯葉病が流行する。事前に薬草を買い占めていれば、薬草は手に入らないだろ。そこに少しづつ、買い占めた薬草を売っていく。そうすることで掃いて捨てるような価格で手に入れた薬草が五倍、十倍、いや上手くやればもっと高値で売れるだろう! 何せ、我輩しか持っていないのだからなぁ! サイカを手に入れることができたのは想定外だったがな」

 イゴッゾは悪びれることなく、その醜い顔をさらにゆがめ、高らかに笑う。


「でも、残念だったな。俺たちが真実を知ってしまった。これは犯罪だ! 貴族だからって許されると思うなよ」


 俺の言葉を聞いたイゴッゾは不気味な笑みを浮かべる。その表情には余裕がうかがえる。

「犯罪というのはバレなければ罪に問われないのだよ! そしてここは我輩の屋敷! 我輩の息のかかった者以外の目撃者はおらんぞ! 貴様ら全員をここで始末してしまえばいいだけのこと」


 ジョーが刃渡りが三十センチ程のダガーを握り身構える。カツジも鞄から取りだしたナックルダスターを拳に装着する。ようはメリケンサックだ。


「クルト! こいつを使え!」

 一般的なショートソードよりも少し短めの剣をカツジから受け取ると、見よう見まねで剣を構えた。まぁ、何もないよりマシだろう。


「お前たちは後ろの二人をやれ! 我輩はこやつを始末してやる」

 イゴッゾが俺に剣を向け指示を飛ばすと、衛兵たちは二手に分かれ、カツジとジョーに切りかかる。

 カツジとジョーは多人数を相手に攻撃を見事にさばいてはいるが、俺との距離が徐々に離れていく。

「クルト! 俺が戻るまでやられんじゃないぞ!」

「クルト殿! しばし持ちこたえてくれ!」


 俺はカツジから受け取った剣を構えたまま、イゴッゾのほうを向く。イゴッゾもまた、俺に対して剣を構え口をひらく。

「ギルドでの狼藉、忘れてはおらんだろうなぁ? あの時は止めを刺し損ねたが今回はそうはいかんぞ」

「俺もあんたを許したつもりはないんだぜ」

「貴様のような力もなければ金もない弱者に、許す許さないを決める権利などないのだ! 貴様は我輩にやられるだけの存在なのだぁぁ!!」

 イゴッゾは言い終わると同時に、剣を持っていないほうの腕を突き出した。それと同時に大砲のような風の塊がその腕から放たれた。魔法である。


 俺は避けることもできず、その風の塊に直撃し、大きく吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされて地面に叩きつけられた衝撃が体全体をかけめぐる。カツジから受け取った剣は俺の手を離れてさらに遠くへと飛ばされていた。


 俺が起き上がろうとした時には、すでにイゴッゾは目の前まで距離をつめていた。

 二人の体勢は奇しくもギルド内で争った時とまったく同じ結末を迎えていた。ただし、今回は俺を助けてくれたべステン局長はいない。


「貴様はこうなる運命だったのだ! みっともなく命乞いでもしてみるかぁ? もしかしたら我輩の気が変わるかもしれんぞ!」

 からかうようなイゴッゾの言葉。その顔には俺を生かそうという気持ちは微塵も感じれない。

「……どう考えても、お前みたいな豚にサイカさんは似合わないな」

 イゴッゾの額に青筋が走る。やっぱりこいつはそうとうサイカにご執着のようだ。

「どのみち生かすつもりもなかったが、どうやら死にたいようだな」

 剣を突くように構えるイゴッゾは十分に狙いを定める。


「我輩に逆らったものは、心臓を一突きだぁぁ!!」


 狙いすまされた剣先が凄まじい勢いで俺の心臓に向かってくる。



「……心臓を一突きねぇ」

 俺がつぶやき終わると同時に、イゴッゾの放った剣は目標に到達した。左胸、心臓のその位置に剣先が当たる。


 ――キンッ!! という金属と金属がぶつかり合うような甲高い音が辺りに響きわたると同時に、俺とイゴッゾのまわりに稲妻がほとばしり体の自由を奪う。


「――き、貴様、一体な、何をした!?」

 体の自由を奪われたイゴッゾが驚愕の表情を浮かべ、呂律の回らない口調で問いかける。

「パ、パラライズの魔道具、だ、お前は、さ、最後に、し、心臓を狙うからな……胸ポケットに、し、仕込ませてもらった」


 そう、カツジからもらった魔道具だ。あの時はゴミだと思っていたが、この土壇場で大活躍である。その魔道具(ごみ)のおかげで圧倒的実力差があった俺とイゴッゾの戦いを引き分けにまで持ち込むことができたのだ。


「だ、だが、動けないのは、貴様も同じ、我輩の部下が、き、貴様の仲間を片付け、も、戻ってきたら貴様の、ま、負けだ」

 イゴッゾは勝ち誇ったような顔を浮かべている。

 こいつは何を勘違いしているのだろうか。だから俺は言ってやった。



「俺は弱くても、俺の仲間は強いぜ」


 俺がイゴッゾに告げると、それに応えるようにこちらに駆け寄ってくる足跡が二つ。

「おーい! 生きているかぁ! クルト」

「クルト殿! すまぬ、遅くなった」


 カツジとジョーの声を聞き、この戦いの勝利を確信すると、俺のかろうじて繋がっていた意識の糸はほどけてしまった。

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