表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/12

プロローグ

 空に雲は少なく、青空から降りてくる日の光がとても暖かい。道路には白線がなく、周りの田んぼでは、おじいさんたちが畑仕事をしている。

 そんな穏やかな田舎道で俺、鈴木来人(くると)は学校からの家路を急いでいた。


 今日は、某国民的RPGの新作ゲームが発売する日。ネットで注文していた商品の配達が完了したことはスマホで確認しているので、あとは家に帰るだけだ。


 新たな冒険の始まりに期待を膨らませていると、前方から一台の車がこちらに向かってくる。

 免許を持っていない高校生の俺から見ても、その運転はぎこちなくフラフラとしていることがわかる。


 危険を感じた俺は道の端に避け、早くなっている呼吸を整えながら車が通りすぎるのを待つことにした。しかし、その車は通りすぎることなく、急激にスピードをあげてこちらに突っ込んでくる。

 避けることもできず、蹴られた空き缶のように勢いよく飛ばされた。衝突する瞬間、フロントガラスの中にビールの空き缶が転がっているのが、目に焼きついた。


 痛みを感じる暇もなく、意識がどこか遠くへと向かっているような感覚の中、俺は思った。


「……せめてゲームをクリアしたかった」


 最後にそんな後悔をしながら、思考は停止した。



「……クルトさん、スズキクルトさん……」


 どこかから名前を呼ばれている。


 あれからどうなったのだろうか。

 正直助からないと思っていたが、どうやら助かったみたいだ。ゆっくりと息をはき、体の中の空気を出しきり、目をあける。


 病院にいるものだと思っていたが、どうやら違ったようだ。

 周囲には何もなく、真っ暗な闇が続いており、俺のいる場所だけがスポットライトを当てられているように明るくなっている。


「目覚めたようですね。スズキクルトさん」


 再び、声が聞こえてくる。その声は、花瓶に水が注がれるように、心の中が満たされるような優しさがある。


 その声は俺に告げる。

「まずは状況をお話しさせていただきますね。スズキクルトさん。残念ながらあなたは自動車との事故で亡くなってしまいました」


「そうですか……」

 死んでしまったならばこの異様な空間にもなんとなくだが、納得できる。


 声は説明を続ける。

「それでですね、本来ならば亡くなった命は意識と魂に分けられ、意識は仮の肉体とともに、あなた達の世界でいうところの天国で暮らすことになります。そして魂は新たな命に宿らせるようになっているのです。魂というのは生きるために必要な物であり、命を失ったものから新しい命へと受け継がれていくものなのです。しかし、スズキクルトさんの場合は若くして命をなくし、かつ、強い後悔を残しながら亡くなられたので、意識と魂をわけるのに膨大な時間を必要としてしまうのです」

「えっと……それはどのくらいの時間がかかるものなのでしょうか?」


 俺の質問に対し、声は答える。


「……五百年くらいかかってしまいます。天国に送ることもできないので、この何もない場所で五百年待っていただくことになってしまいます」

 いや、無理だろ。こんな何もない空間で五百年いてまともにいられるはずがない……


 俺がこれからの境遇に絶望していると。

「そこで提案なのですが、魔法が存在する別の世界にあなたを転移し、蘇生魔法により蘇らせるという方法があります。その世界で二十歳を迎えることで意識と魂をわけることができます。スズキクルトさんは現在十七歳ですので、約三年間、その世界で暮らしていただければ、この五百年問題を解決することができます」


 その説明に気になるワードがあり、俺は身を乗り出して、質問をする。

「あの! 魔法が存在するということは、もしかしてゲームみたいに魔物が存在し、剣や魔法で戦うファンタジー世界的なイメージでいいんでしょうか!?」

「そうですね。魔物が存在し、そこに住む人たちの多くは冒険者となり、ギルドという冒険者組合からの依頼で魔物の討伐やダンジョンの探索などで生計を立ていますね」


 その答えを聞き、俺はさらに前のめりになり質問をする。

「つまり、その世界で俺は剣や魔法を使って冒険者として生きていくということですか!?」

「あ、それは違います。剣や魔法の経験がないスズキクルトさんには冒険者ではなく、冒険者をサポートするギルドの職員として働いていただこうと思っております。冒険者となるにはそれなりの訓練が必要ですし、試験もあります。言いにくいのですが、スズキクルトさんが試験に合格するのは無理だと思います。」


 前のめりになった体が崩れそうになり、地面に手をついた。しかし、ショックからか手に力が入らず地面に額がゆっくりと近づいていく。


「待ってください!! そんなに落ち込まないでください。たしかに冒険者として活躍するのは難しいと思いますが、特典があります。この方法で二十歳を迎えると選択肢が増えるのです。まずは最初に説明をしたとおり意識と魂をわけて天国に行く選択、次に二十歳を超えてもこの魔法と剣がある世界で生きていくという選択!この場合は早ければ三十歳くらいで冒険者になれるくらいに強くなっている可能性はあります。そして最後に意識と魂をセットにして今の世界、つまり日本で新しく生まれ変わる選択です」


 なるほど、本来ならば天国に行くしかなかった選択肢が、別の世界で生きるか、日本で生まれ変わるかを選べるという事か。剣と魔法の世界も魅力的だが、十年以上の時間をかけてなれるかどうかの冒険者を目指すのは割に合わない気がする。一方、最後の意識と魂をセットにして日本に生まれ変わるというのはすごいことではないだろうか。


 俺が悩んでいると声が話しかけてきた。

「意識と魂をセットにして今の日本に帰れば、スズキクルトさんが生前後悔された。ゲームをクリアしたいという思いも叶えることができますよ」


「やります」


 俺は即答した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ