駅は見ていた
ローカル線の、小さな駅の物語です。
初めての投稿で見にくい文章ですが、よろしくお願いします。
駅は見ていた。
田舎のローカル線の小さな終着駅。
1両編成の列車がのんびり走る、どこにもある地方の風景。
そんな路線の小さな終着駅。
駅員もいない無人駅だけど、この駅は移り行く時の中、四季折々の風景と共に、この路線を見守ってきた。
ー春ー
満開の桜が咲き誇る中、真新しい制服に身を包み列車に乗り込む学生。その表情はどこか緊張していて、けれどもこれからの学校生活に期待を膨らましていた。
ー夏ー
蝉の鳴き声が響き、暑くなると、近くの海に海水浴に行く人で賑わう。
静かな駅が活気付く時、いろいろな人の笑顔が広がっていた。
ー秋ー
今まで暑かったのが打って変わり、涼しく少し肌寒い日が続くと、山の葉は紅く染まっていく。
駅はいつもの通りの静かさで、時々響く虫の声と冷たい風が冬がすぐ近くまで来ていることを知らせていた。
ー冬ー
周りは一面銀世界になる。
深く積もった雪は、列車の運行にも支障をきたす。それでも駅はいつも温かい燈が灯り、利用者を待っていた。
1年を通して駅は、人それぞれの表情を見てきた。
楽しいこと。悲しいこと。
乗客一人一人を温かく迎え、見送り、いつまでもそこにあり続ける。そんな当たり前の事が終わろうとしていた。
鉄道会社は利用者の少ないこの路線の廃止を決定した。
それは同時に、駅が無くなることを意味していた。
これまで長い年月、そこにあり続けた駅は一瞬にして無くなることになるのだ。
廃止が発表されてから、沢山の鉄道ファンが路線を、駅を訪れた。
それは、かつてこの路線が栄えていた頃のようだった。
最後の日がやってきた。
駅と路線は今まで以上に賑わった。1両編成の列車に沢山の人が乗った。小さな駅に沢山の人が訪れた。
そして最終列車が満員のお客さんを乗せて駅を発車した。長い長い汽笛を名残惜しむように何度も鳴らしながら。
やがて、列車の姿が見えなくなると、一人、また一人と去っていく。小さな駅の長い歴史が今終わった。
やがてそこは自然に戻るだろう。だが忘れてはいけない。そこにかつて線路があり、小さな終着駅があったことを。
それはかけがえのないものだったということを。