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ヤツアタリ

「それで。俺はこれからどうすればいい?」


 重ねて、交わし合った幾つものキスの後、私からゆっくりと身を離すとおもむろに御影君が呟いた。


「本音は今すぐ樋野を抱きたい。けど、樋野は嫌だろ? 初めてで、何の心の準備すらないままで」


 咄嗟には言葉が出ない。けれど、やはり正直にこくりと頷いた。

 実際のところキャミ姿でいるだけでも、火が出るほど恥ずかしい。


「とりあえず、ベッドに入らないか? 樋野のそんな姿見てると、それだけで欲情しちまう」


 また、ぼっ!と顔が赤らんだ。


「抱き締めるだけ。それ以上のことは誓って何もしない」

 でもそんな御影君の様子に、私は黙って再びベッドの中へと入った。

 しかし、今度は壁と反対側、彼の方を向いている。     

 彼もベッドへ入ると、そっと私を抱き締めた。


 温かい……御影君の躰……。

 素肌がこんなに心地いいなんて。

 彼に出逢うまでは知らなかった。


「やあらかいよな。樋野の。女の子のからだって」

 恍惚とした、そんな彼の言葉に、

「御影君は。初めてじゃないんだ」

と、思わず本音が出てしまっていた。 


 そんなことわかってる。

余裕綽々の彼の行動。女の子の扱い方も熟知している。


 私は何人目の女の子なの?!

 本当に他に彼女はいないの。


 たった今、彼の告白を受け入れて、私達は「カレ・カノ」になったはずなのに、その傍からもう疑念がふつふつと沸き起こってきている。

 それが見たこともない女の子達に対する、まごうことなき「嫉妬」であるということに、私は全く気づいていない。


「何、怒ってんだよ。樋野」

 私の気持ちも知らぬ気に、彼が言う。

「だって、ずるい! 御影君は何でも知ってて、女の子も私が初めてじゃないのに、私は……何にも知らない。わからない……」


 気分が昂ぶる。どうしていいのかわからない。

完全に「ヤツアタリ」とわかっていたけれど私は、そんな台詞を吐かずにはいられなかった。


 滲んでくる涙を見られまいと仰け反ろうとした私の躰を、彼は瞬時に抱き留め、そして折れんばかりに力一杯、抱き締めた。


「そんなこと言うなよ。本当に最後まで抱いちまうぞ」


 瞬間、ビクリと躰を震わせた。耳元での彼の乾いた言葉に本気で怯えてしまう。


「本当は必死で我慢してるんだ。樋野がどうでもいい女なら、とっくにお前をモノにしてる。……こういう物言いがお前には気に入らないのかもしれないけど俺達、高二の秋にようやく出逢ったんだ。それ以前の過去なんてどうしようもないだろう? つまんないこと気にすんなよ」


 そう言いながら彼は、私の髪の毛を一筋すくった。


「御影君……」


 私は今度こそ、彼の胸の中で思い切り泣いていた。

 黒い感情も正体のわからない不安も何もかも、彼の胸の中で全て拭い去ってしまいたかった。


「強がりで、甘えたがりなんだよな、樋野は」


 御影君は私をそっと優しく抱き締めてくれる。


 私は泣くだけ泣くといつしか、深く快い眠りへと誘われていた。


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