第九話
間が空いてしまい、申し訳ございませんでした!
木曜日。
僕は今日も上の空。
「……春希、お前もうそろそろ病院に行ったらどうだ」
巧真が言った。
「同感」
「上に同じ」
実里が言い、由梨もそれに同意する。
僕は心配掛けまいと、
「大丈夫だよ。少し心配事があるだけだから」
と言って笑顔を見せた。
しかし、
「その笑顔を見る限りは、大丈夫そうじゃないけれど」
巧真は、言葉に溜息を織り交ぜながら、呆れた顔をする。
どうしてか聞くと、
「不自然だから。顔が左右対称じゃない」
「あ、言われてみれば。右目が笑ってない」
実里が納得する。
「本当だ。ねえ、無理しないでよ、春希」
由梨も眉を顰める。
「大丈夫、大丈夫。もうすぐ土曜日だし、一日休めば元通りになってるよ。……多分ね」
最後の言葉は、四人に聞かれないように呟いた。
「多分って」
由梨にはしっかり聞かれていた。ゴメンナサイ。
「まあでもそんな心配しなくて大丈夫だよ。少し疲れているだけだから」
僕はそれ以上の反論は許さないとばかりに、本に目を戻した。
***
今日も図書館に寄らずに帰宅した。
「ただいまー!」
そう言って僕は靴を脱ぎ散らかした。
「おかえり~。靴は揃えなさいよ~!」
僕の様子を見ていないお母さんが言った。
……何故解ったのだろう。
「魔法よ~!」
ああ、成程。
僕は納得して靴を揃えた。
自分の部屋に行き、着替えた僕はリビングに戻り、お母さんに聞いた。
「お祖父ちゃんは?」
「見ての通りまだ……」
「今来たぞ」
お母さんの言葉を遮る言葉と共に、お祖父ちゃんが現れた。
「お祖父ちゃん! ねえ、どっちがどっちなの、宿命の二人は!?」
僕は、現れたお祖父ちゃんに向かって叫んだ。
「まあまあ、そう急くな。それより春花はどこだ?」
「漫画読んでるんじゃない?」
「正解! 流石兄! でも今終わった所だよ」
春花が二階から降りてきた。
「お兄ちゃんおかえり、お祖父ちゃんいらっしゃい。ねえねえ、早く教えて!」
「ああ。では、発表する」
お祖父ちゃんが、威厳を持って言った。
「『正義を生かす者』は、伊田巧真、『正義を殺す者』は赤居伶太だ」
***
金曜日、僕は巧真と内密の話ができるチャンスをどうにか作れないか、考えて過ごしていた。
つまり、傍から見れば『上の空』、若しくは『心ここにあらず』。
その為、昨日に引き続き朝っぱらから心配された。
「……春希、悪い事は言わないから早退しろ。せめて保健室で休め」
巧真が呆れた顔をし、
「そうだよ! もういい加減休んでよ! わたしたち皆、心配してるんだからね!」
実里が憤慨し、
「こうなったら実力行使ね。巧真、春希を保健室に連れて行きなさい」
由梨が命令した。
「了解! ほら春希、行くぞ!」
力の弱い僕は、有無を言わさず引っぱられ、教室の外へと連れてかれる。
「大丈夫だってば~! 悩み事があるだけだから、体調には問題無いんだよ」
こう言うと、
「じゃあ悩みを打ち明けてくれ」
と返って来た。
ん?
考えてみれば、これは二人だけで話すチャンスじゃないか!
意外な所で巡ってきた。
「……分かった。あー、人に聞かれたくないから、保健室以外の場所で良い?」
「ああ。何処が良い?」
「うーん…………トイレ?」
「いや、人来るだろ」
「そっか。じゃあ…………」
…………………………。
「どうした?」
「思い付かない」
「確かに。というか、そんなに人に聞かれたくないのか?」
「うん。人に聞かれたら世界が変わる」
「そこまで!? 大げさだなあ」
「嘘でも大げさでもないよ」
「ええ? どういう事だ? 反陽子爆弾の作り方の相談か?」
冗談めかしして言う巧真。強ち間違っていない、かも?
だって、魔法を使えば作れるようになる筈だもの。
「まあ、兎に角。うーん……どこか無いかな……」
「…………そうだ、書庫が良い!」
「書庫?」
「ああ。図書委員や司書が付いていれば誰でも入れるようになっているし、余程の事が無い限り、書庫なんか行かないし、それ以前にその存在を知っている人がいるかどうかも怪しいから、人の目から隠れるにはもってこいなんだ。時々図書委員同士のカップルがいちゃいちゃしているらしい」
「おおー! お誂え向きだね」
僕は感心した。
だが今から行く事にはならなかった。流石に授業をサボって図書館に行くと逆に訝しがられるからだ。というわけで、昼休みに行くことになった。
教室に戻り、席に着く。授業はまだ始まっていない。時計を見ると、残り二分。セーフ。
それに気付いた由梨が、巧真に咎めるような視線を送ってきた。
巧真は、
「悪い、この通り説得された」
と言い訳した。
幸い、信じてくれたようで、今度は僕に、咎めの視線を送ってきた。
……痛い。
申し訳なさが僕の胸を、植物の棘の様に突いた。針よりは柔かいが、しかし、確かに痛い。
僕は片手で拝み、口パクで「ごめん」と謝った。
由梨は呆れた顔で溜息をついたが、それ以上こちらを見なかった。




