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第六話

 予言の事を聞かされた次の日。

 僕はお母さんと妹の春花に、お祖父ちゃんから聞いた事を全て話した。理由は、協力してくれる人は多いに限る、と思ったからだ。

 僕の家族で魔法を使えるのは、僕と妹とお母さんなのだ。お父さんは婿養子なので、名字はお父さんの実家の関口ではなく、お母さんの実家の永園なのだ。

 そういうわけで、週末は会社の同僚と組んでいるサッカーチームの練習に出掛けるお父さんがいない日曜日の午後に、魔法の話をしているのだ。

 

 「わ~、ファンタジックで素敵な話だね~! 浪漫が溢れてるよ、予言とか」


 ポジティブな発言をするのは、小学五年生の漫画好き、春花。

 あの、人死にも有り得るから、一概に素敵とは言い切れないんだよ……?


 「でも大丈夫なのかしら? 中学生でそんな、命が関わるような事をしても……。春希も、宿命の二人も、最悪の場合死んでしまう可能性があるのでしょう……。正直言うと、あまり関わって欲しくないのよ」


 現実的だけれど、徹底的にネガティブな発言をするのは、お母さん。

 いや、そりゃそうだけどさ……。少し位浪漫を求めても良いんじゃない? って思う所が、僕がまだ小さい子供(ガキ)だという事の証明なのかもしれないけれど。


 「え、大丈夫でしょ、お兄ちゃんなら。強……くはお世辞にも言えないけれど、こっちには魔法があるし。魔法のセンスはここ最近の一族で一番だってお祖父ちゃんも褒めてたじゃん。余裕よ、余裕」


 妹よ、そんなに期待されてもプレッシャーが半端じゃないから、やめてくれ。頼むからそんな期待に輝かせた宝石みたいな目でこっちを見ないで~!


 「買い被り過ぎよ、春花。センスはあっても努力や経験がまだ足りないわ」


 今度は否定された。きっぱりと。そこまで言われると違う意味で自信が無くなる。

 この二人、親子のはずなのにどうしてこうも正反対なんだろう。顔は瓜二つなのに。

 そんな二人を交互に見比べながら、僕は話を進める。


 「まあ、僕の魔法能力云々は兎も角。どっちにしろ宿命の二人が対決するのは、確率的にも高いし、僕が何もしなかったら正義が殺される確率が高くなるから、やるって、もう決めたんだ」


 力を込めて、僕は今した決意を言葉で紡ぎ、伝えた。

 二人は、喉をごくりと上下させ、僕の顔を見つめた。

 ……癖は全く同じだな。

 少々呆れながらも、僕は続ける。


 「お母さんの言う通り、命に関わる対決になるかもしれない。でも、予言がされてから初めて行われた対決では、悪が勝利して、沢山の人が死んだ。当時の村人が、幾人も犠牲となった。今回も、そうなってしまうかもしれない。だから……」

 「やるしかない、でしょ?」


 僕が最後、詰まって言えなくなった言葉を、お母さんと春花が同時に引き取った。


 「流石親子」

 「それじゃだめ! 流石家族、でしょ! あたしとお兄ちゃんは兄妹なんだから、それを加えてくれなくちゃ。はい、やり直し! もう一回(もっかい)言って」

 「……流石家族」

 「テイクワン、オッケー!」

 「春花、今映画関係の漫画読んでる?」

 「流石兄だね!」

 「……」


 春花、これは少しでも仲が良い人なら一瞬で悟れるからね。勘違いしないように。

 生温かい目で、僕は春花を見、


 「将来、悪い人に騙されないようにね」

 

 と忠告した。

 とそこで、

 

 「……春希、春花、お母さんの意見を聞いてくれないかしら?」


 お母さんが発言した。


 「はい何でしょう! ……ごめん、少し忘れてたよ」

 「良いのよ。それより……やるしかない、なんて言ってるけれど、春希、やるなら一つ、お母さんと……いや、お母さんと、お父さんと、春花と、お祖父ちゃんと、お祖母ちゃんと、約束して頂戴」


 お母さんは、今までに見せた事が無い程に険しい表情をしていた。

 だから僕は、


 「何を?」


 というのが精一杯だった。

 僕も険しい顔をしていたのか、お母さんは安心させるようにふっと柔かく笑って、


 「絶対に、死なない事」


 と変に調子の外れた、高い声で言った。

 この声は、お母さんが興奮したり、やましい事があったり――――


 自分の本当の気持ちを隠そうとしているときに出す物だった。



 ***



 月曜日、予言を知ってからは初めての登校だ。


 「おはよう」


 そう言い、僕は机にリュックを置き、中身を机の中に移し、リュックを机の横のフックに掛ける。いつもと違う行動をした僕に目を見張る巧真、実里、由梨を尻目に見ながら、四月に書かされ、それから間も無く張り出された『自己紹介』の紙を見る為に廊下に出る。

 そして僕は片っ端から生徒全員の名前と誕生日を、左手に持った手帳にメモをして行った。

 この日、休み時間は全部メモに費やした。

 放課後、残りの一クラス全員分のメモを終わらせた僕は、図書館にも寄らないで真っ直ぐ帰宅した。


 「ただいま! お母さん、手伝って!」


 そう言いながら玄関に靴を脱ぎ散らかす。

 普段はこんなことしない。いや、しませんよ!

 

 「はいはい」


 やれやれといった風にお母さんが返事をしてくれる。


 「あたしも手伝うよ~。何すればいいの?」


 春花も手助けを申し出てくれた。


 「ありがとう、二人とも。このメモの中から同じ誕生日の人を探し出してほしいんだ」


 ピックアップして行くのは簡単ではなかった。何しろ百余人もいるのだから。

 夕飯を食べている間も、僕は探し続けた。普段なら『行儀が悪い』とお母さんが怒るところだが、今日だけは何も言わなかった。

 そして、やっと最後まで確認できたが、それはたったの二人だけだった。



 ――その二人の名は、伊田巧真と赤居伶太だった。

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