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第五話

 始まりは、魔法使い達が住む村に、旅人が立ち寄った事だ。

 彼は村に住む娘に一目惚れし、結婚。村に居着いた。

 当時は村人全員が魔法を使えていたので、旅人も呪文を教わった。

 そして、その旅人、もとい、元旅人は、類稀なる才能を持っていた。

 ――それは、予言の才能。

 彼は夢で起こった事が現実になる、という所謂正夢をよく見ていた。

 だがその夢は、起きたらすぐ忘れてしまい、現実になって初めて『夢で見ていた』事に気が付くのだ。その為、予言を役立たせる事が出来ていなかった。

 だが魔法の呪文を教わったことで、夢の内容を覚えていられるようになったので、元旅人は予言者として村人から信頼されるようになった。

 さて、ある秋の日。

 嵐が近付き、強い風が吹き荒れていた、そんな日の事だそうだ。

 予言者が、いつもの様に夢でみた内容を書き留めて、それを村長の家へ持ってきた。

 ――顔を、月よりも蒼白く染めて。


 「一体どうしたのだ、朝早くに」


 と村長は問う。


 「大変です。今しがた目覚めたのですが……この村は、近いうちに滅ぼされてしまうかもしれません」

 「な、何だと!? ど、どういうことなのだ……?」

 「順を追って説明します。今日、二人の赤子が村に生まれます。一人は、この村を壊滅させる力を持って。一人は村を救う力を持って。彼等は成長したら、自分の信念に基づき行動します。そして……魔法で対決します。結果は分かりません」

 「まさか……」

 「本当です。ただ、このような事が五百年毎に、この地で起こり続けていたそうなのです。恐らく、今回より後にも……。ですから、魔法を伝え続けるのは危険です。せめて、一つの家系にのみ伝え、事が起こった時に救う方に味方させる、位しか……」

 「うむ……。確かに、時代は変化して行っておる。魔法が廃れるのもまた運命(さだめ)か……。仕方が無かろう。そなたの一族に、魔法の全てを任す。また、わしには子供がおらぬ。わしが死んだら、村長の相続権もそなたたち一族託したいと思うのだが、良いか?」

 「畏まりました」


 そして、お触れが出された。


 『今後一切の魔法の使用、人に教える事を禁ず』


 と。


 

 そして、ぎりぎりで魔法を教わっていた宿命の二人は、遂に激突した。

 結果は。

 悪の勝利、だった。

 村は壊滅し、村長も死んでしまった。

 だが、村長に任命されていた予言者は生き延びることができた。

 予言者は、子供達に命じた。


 『この事を記録した。この本と魔法を代々、子にのみ伝えて行け』


 と。



 ***



 「そして、現在に至る。――そんなところだ」


 お祖父ちゃんの話が終わり、僕はほうっと息をついた。

 まるで、ファンタジーだ。

 まあ、僕等がやっていることも相当ファンタジーだけどさ。

 長い話ではなかったが、そこには歴史の重みが感じられ、そしてお祖父ちゃんの語り方は『自分達のルーツに直結した話だ』という意味合いのことが言外に含まれていた。

 だから僕は、空想(ファンタジー)っぽいとは思いつつも、実際にあった、事実なのだなと悟っていた。


 「なんだか凄いね。予言者、とか……」

 「だろう?」


 お祖父ちゃんが僕の言った感想に得意げに反応する。

 ……お祖父ちゃんの話じゃないし。確かに祖先の話ではあるけれど、だったら僕の祖先でもあるし。

 少し呆れつつも、悪い気分ではなかった。


 「あ、そうそう。この本や魔法と一緒に、予言もこの家には伝わっているんだ」

 「予言?」

 「そうだ」


 曰く、


 『五百年に一度、正義を殺そうとする者と正義を生かそうとする者が日を同じくして生まれん。やがてそれぞれの信念に基づき、戦うであろう。我ら永園一族、正義を生かそうとする者に味方をする為、魔法を伝えん』


 とのこと。

 ますます凄い事になってきた。……といっても予言者なんだから、予言をするのは当たり前か、と一人納得していると、またお祖父ちゃんが話し始めた。


 「ところで春希。お前の学校に誕生日が同じ人はいるのか?」

 「えー、知らないよ。まだ入って日も浅いし、あんまり人と関わらない方が良いし」

 「どうして人と関わらない方が良いんだ?」

 「いや僕、隠し事が苦手だから……」

 「そんな事無いんじゃないか? だったら何故、今は友達と仲良くしているんだ?」

 「それは不可抗力というか……って、なんで僕の友達の事知ってるの!?」

 「そりゃ、魔法に決まっとるだろう。魔法でお前の学校生活を見ておったのよ」

 「え、怖いよ! ……魔法を廃れさせたのは正解だったね。じゃないとストーカーや犯罪者が増えてしょうがない」

 

 全く、覗き見なんて趣味が悪い祖父の孫に生まれるなんて。


 「あ、そう言えば、どうしてわざわざ本を書いたの?」

 「そりゃ、普通に気付いても面白くないからに決まっとるだろう。それに、売れれば印税で儲かるしな」


 あくど!

 本音は、後者に決まっている。

 そんな僕の心を覗いたのか、


 「まあまあ、そんなに怒るな。だが学校を見ていて一つ、分かった事がある」


 と僕を宥めた。

 いや、怒るよ!

 でもそんな僕に構いもせず、お祖父ちゃんは次にとんでもない発言をした。


 「予言に出てくる今回の宿命の二人は、お前の学校の一年生だ」


 え、えぇーーーっ!?


 「どういうこと!?」

 「どうもこうも無い。条件が合致するんだ。ただ、その二人が誰なのかが分からないだけだ。だが、絶対にいるはずだ。というわけで、調べてこい。同じ誕生日の奴がいないか。それとどっちが正義を生かす者なのかが分かったらそれも報告してくれ」

 「……本当に?」

 「本当だ」


 マシンガンの様に言葉を発射していくお祖父ちゃんに付いて行けず、やっとこさ発した問いとも言えない問いも一蹴され、とうとう僕は押し黙ってしまった。

 と、そこに、お祖母ちゃんが扉を開けて入ってきた。

 手にはお盆を持っている。


 「随分楽しそうだけれど、夕飯が出来ましたよ。内密の話なら、一旦おやめになって下さいな」


 ……お祖母ちゃん、千里眼?


 「え、あ、き、聞いていたのか?」


 焦るお祖父ちゃん。

 た、確かに、聞かれていたらマズイじゃん! 


 「大丈夫ですよ。聞いてなんかいません。あまりにも真剣な顔をして蔵で何かを探していたものですから、そう思っただけですよ」


 そう言って、にっこり笑う。

 僕はほっとした。

 それに、ばれていたとしても、お祖母ちゃんは悪用なんて絶対にしない人だから、大丈夫か。


 夕食を食べ終わってから、僕は家に帰った。

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