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第四話

 その週は、とてつもなく長く感じられた。

 その間に、成人してしまうほどの時間が掛かった気がしていた。

 でも当然の如くそんな事は無く、僕が成人するどころか次の誕生日も迎えぬまま、土曜日になった。

 僕は普段だと考えられないほどに早く起き、これまた普段だと考えられないほどにきびきびと支度をする。

 そして、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの住む家に自分が立っているイメージをし、呪文を唱える。

 次の瞬間、夏の生温かい風を感じたと思ったらイメージが現実になった。

 昔ながらの平屋建ての家の扉を叩く。

 やがて、ガラガラという音と共に扉が開き、お祖父ちゃんが現れた。


 「おお、春希。久しぶりだな。少し見ないうちに男前になったなー、祖父ちゃんに似て。ワッハッハ!」


 軽口を叩き、僕を招き入れる。


 「お邪魔します」

 「ああ」


 僕は靴を揃え、中に入る。

 通されたのは、居間。

 卓袱台の前にはお祖母ちゃんが座っていた。


 「お祖母ちゃん、久しぶり」

 「おや、春希。久しぶりだねえ。今日はゆっくりして行ってね」

 「うん、ありがとう」

 「じゃあ、春希。蔵に行くぞ」

 「え、蔵?」


 お祖母ちゃんともう少し話したい気持ちもあったけれど、後でも話せるし、僕はお祖父ちゃんの後に続いた。



 ***



 「ええっと、これじゃない。これでもない。あ、これか? ……違う。じゃあ、……」


 蔵にて。

 僕は、呆れていた。

 一方、お祖父ちゃんは必死だ。


 「あ、あれ……? どこやったかな……?」

 「……お祖父ちゃん、準備してなかったの? 僕が来るって知ってて?」

 「あ、いや、その……済まん」


 汗を拭いながら言うお祖父ちゃんに溜息を吐いて僕は


 「はぁー。もう、手伝うよ。どんなのを探せばいいの?」


 と手伝いを申し出た。

 お祖父ちゃんはほっとした様に


 「薄い本だ。和紙が麻紐で閉じてある。表紙には『予言ノ書』と書いてある」


 と探し物の詳細を話してくれた。


 「分かった」


 へえ。予言、か。

 妙に感心しながら返事をし、僕は棚を漁り始めた。

 ああ、重労働だ。

 何故かというと、物凄く広いからだ。

 時代劇にでも出て来そうな外見で、『此処に住め』と言われてもライフラインが繋がっていれば、家族でも余裕で住めそうなほど。

 その中にぎっしりと棚が並び、またぎっしりと秩序なく様々な物が詰められている。

 僕たちはそんな薄暗い蔵の中を隅々まで探し回った。

 けれど、一向に見つからない。

 やがてお祖母ちゃんが呼びに来た。


 「お昼が出来ましたよ。一旦休憩したらどうですか」


 もうお昼になっていたんだ。

 確かに、お腹が空いている。


 「もうこんな時間か。春希、済まんな。こんなに時間が掛かるなんて思っていなかった」

 「ううん、平気。気にしないで」


 そう言って、蔵を出る。

 お昼ご飯を食べ終えたら、また蔵へ行き、探し始める。

 そして、蔵の木製の窓の隙間から入ってくる光がオレンジ色に染まった事にふと気が付いたその瞬間、


 「あったぞ!」


 とお祖父ちゃんが叫んだ。

 振り返ってみると、『どうだ!』とばかりに胸を反らしたお祖父ちゃんが薄い和紙の本を持っていた。


 「これだ」

 「あった~……。疲れたぁ~」

 「済まんな。こんなに付き合わせてしまって」

 「いいよ。ねえ、早く話してよ」

 「分かった。じゃあ、家に戻ろう」



 ***



 居間にて。

 お祖母ちゃんは夕飯の用意があるので、台所だ。

 僕はお祖父ちゃんと向かい合って卓袱台の前に座る。


 「まず、昔ある村の人間が魔法の呪文を知っていたという事は話したな?」

 「うん。でもある村長が魔法を禁止したんでしょ? 確か、悪事に使われないように。でも村長一家だけは呪文を後世に伝えたんだよね」

 「そうだ。だが、何故伝えたのかというのは話していなかったよな。それがこの予言ノ書に記されているんだ。多分お前には読めないだろうから粗筋をこれから話す」


 そして、お祖父ちゃんの話が始まった。

 とても現実に起こったとは思えないほどファンタジックな、でも妙なことに事実だと思わざるを得ない、そんな話が。


 「始まりは、魔法使い達が住む村に、旅人が立ち寄った所だ。彼は――」

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