第十六話
「秘密と孤独ッ!」
僕がそう叫んだ瞬間、伶太の動きが停まった。
狂気を孕んだ笑みのまま。
僕も、動けなくなっていた。
自分が衝動的に動いたその反動だろうか。
「春希、今どんな魔法を掛けたんだ」
お祖父ちゃんに聞かれた。質問の答えを切れ切れに口にする。
「伶太が、掛けようと、している、魔法を、跳ね返す魔法。鏡のイメージで」
台詞の最後の方でやっと呼吸が落ち着き、僕はもう一度長く息を吐く。
「伶太は、僕等の動きを停めようとしていたんだ。丁度良かった」
「ああ、そうだな。よし、こいつが動き出す前に魔法を掛けよう。いつ動けるようになるか分からないから」
「うん。念の為気絶の魔法も掛けておこう」
「俺がやる」
巧真と話しながら、伶太の方に近寄る。
「本と魔法」
巧真が呟くと同時に、伶太の瞳が閉じてその場に倒れる。
僕等は、目を合わせて頷き合う。
「しっかりとやるんだ。意思と、想像力をしっかりと持て」
お祖父ちゃんの励まし。僕が小さい頃、魔法の練習をするときによく掛けて貰った言葉だ。魔法を使うに必要なものをそのまま行っただけの言葉だが、今は懐かしさが心強かった。
そして、もう一度、正義を殺す者に向き直り、僕と巧真――正義を生かす者――がやるべき事を、しっかりと確認し、呪文を唱えた。
合図は無しで、同時に。
――――secret&loneliness。
――――livre&Magie。
***
突然、覚醒した。
ゆっくりと体を起こす。
徐々に、記憶が戻る。
俺は……赤居伶太。
ここは……祖父ちゃんと祖母ちゃんの住む町の山の中に建つ神社の中。
第二の殺人を行おうとして……魔法を跳ね返され、その後、伊田に魔法を掛けられ――。
俺は、気を失っていたのだろうか。
「俺は……?」
どうなったのか。
「あ、気が付いた」
「伶太。今、どんな気持ちだ」
永園……春希が言い、伊田に問われた。
「どんなって」
どんな気持ちなのだろう、俺は。自分で自分が分からない。
「クラスメイトを殺し、更に俺らも殺そうとしたことについてだ」
あれ、どうして殺そうとしていたんだっけ。
こいつ等は、邪魔になったから。クラスメイトのあの女子は――丁度殺人をしようと思っていた時に、あの回転する刃物の前に立ったから。
じゃあ何故、殺人をしようと思っていたんだろう。
春希の話した予言で、正義を殺す者だと知ったから?
――いや、違う。何となくだ。何となく、興味があったから。
殺人という行為に。
人の死に。
今もそう思っているかとなると――。
思っていない。
俺はどうかしていたのだろうか。
何故、人を殺すなどという大罪をいとも容易く実行し、それを懲りもせず続けようと思ったのか。
分からない。
だから、それを伊田に言った。
「分からない。何故、人を殺そうと思ったのか――」
「じゃあ、殺した自分について、どう思う」
「気でも違っていたのか、頭がおかしくなっていたのか…………とにかく、最低野郎だった」
俺が答えを出したとん、不思議な事が起こった。
緊張していた空気がほっと緩んだのだ。
次の瞬間、
「やっ、た……!」
「成功した、のか……」
春希と伊田が、呟いた。
言葉には、安堵と喜びと嬉しさが、はっきりと表れていた。
俺は何が成功したのか分からず、ただ三人の顔を何回も見るだけだった。
巧真の魔法の呪文は、フランス語です。詳しくは、次話にて。




