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第十五話

 次の日、三連休の初日の土曜日。

 僕、巧真、お祖父ちゃんは、新幹線に乗っていた。

 ――伶太が行おうとしている、次の殺人の場所が分かったのだ。


 それは、伶太の祖父母が住む、ある町。伶太はこの三連休にそこで二泊するらしい。仮にR○○町としておく。

 R○○町は山の麓にあり、古くから神隠しの伝承が多く残っていて、その山には天狗が住んでいるとされている。また孤立している為、殆ど町の外との接触は少ない。

 そんな町だが、人口は多い。

 ターゲットが選び放題で、辺境で、他の理由をとっつけられる。

 殺人には、最適の場所。

 伶太が選ぶのも無理は無い。


 でも殺人はなるべく止めねばならない。

 だから今、R○○町へ向かっている。


 ――此処で、伶太のその後の悪行も止める。そう決意して。



 ***



 バスを降りる。此処からは徒歩だ。

 あーあ、こんな時にこそ魔法を使いたいんだけどなー。でもそんなことして人に見られたりでもしたら厄介だから駄目なんだよなー。

 嘆息しながら、文句を心の中に押し込めて歩みを進める。


 昨日、お祖父ちゃんが提案した作戦。正直言って自信は無い。意思の力も想像力もあるけれど、ある意味殺人より難しいからだ。

 けれど、やるしかない。殺人は、本当に、本当に最後の手段だ。

 僕は、自分のやるべき事をしっかりと、再確認する。


 やがて、町についた。特徴が無いと言っても過言ではない程、ごく普通の町だ。

 伶太は先に着いているはずだから、何処にいるか魔法で探す。

 僕等の目にだけ見える地図が、視界の端に現れる。ゲームの画面のような物だ。

 伶太は、祖父母の家に着いているようで、『伶太』の文字が近くにある点が、民家の中にある。


 「どうしようか、取り敢えず突撃するか?」


 と巧真。


 「いや、いきなり現れたら周りに被害が及ぶだろうからやめよう。あいつが人のあまりいない所に行ってから、尾行して、魔法をかけなくちゃ」


 僕はそう否定する。


 「確かに、そっちの方が良いか。何処かに身を隠して、奴が行動するまで待とう」

 「うん」


 そんな僕達を見てお祖父ちゃんが、


 「ふん、わしがいなくてもちゃんと出来るではないか。どうして殺す以外の選択肢を見付けようとしなかったのかねえ。ったく。まだまだ詰めが甘い!」


 とぶつぶつ文句を言う。

 やっぱし子供(ガキ)みたい……。

 相手にするのも面倒なので、無視して話を変える。


 「じゃあ取り敢えず、夜になったら姿を透明にして伶太の近くに行こう」

 「ああ」

 「わしが仕切りたいのだがなあ」

 「お祖父ちゃん、五月蠅い」

 「へーへー。済まん済まん」


 分かったのかなあ? これから一大ミッションが始まるというのに、呑気すぎやしないか?

 少し不安を感じた僕だった。



 ***



 夜。

 当然暗いので、周りの様子が昼の様にはっきりと分かるようになる魔法を掛けた。イメージは暗視カメラだ。

 僕等は今、透明(但し三人はお互いの姿が見えるように条件を追加してある)になり、眠気を魔法で遅らせながら(無くす事は出来ない。生理的な現象をどうこうするのも自然の法則から外れているから)、伶太のいる民家の門扉のすぐ横で待機している。

 そして、草木も眠る丑三つ時――。


 ではなく、午後十一時頃、扉が開いて伶太が現れた(浪漫も何もあったもんじゃない。伶太ももっと考えろよ! 丑三つ時の方が雰囲気あるだろ! ……以上、若干中二病気味な僕の文句)。手ぶらで、ぴったりとした服装をしている。刃物を持っている様子がない。

 ――魔法で直接、殺すつもりなのだろうか。

 僕等は気配を消しながら、夜道を歩く伶太を尾行して行った。


 伶太は、どうやら山に向かっているようだ。懐中電灯は持っていないが、僕等と同じように魔法を使っているのだろう、足取りに迷いや覚束なさは無い。

 やがて山を登り始める。

 暫くすると、石の階段が現れた。その先には赤い鳥居が見える。

 小さな神社だ。

 そして、賽銭箱の前まで行き、振り返る。


 「そこにいるんだろう? 伊田、永園」


 と言いながら。


 ギクリ。

 僕等は身を固くした。

 どうしようか。

 魔法で二人に話しかけてみる。

 取り敢えず、いない振りをしてみよう。

 巧真がそう言った。

 ああ、それが良い。

 お祖父ちゃんも同意する。

 けれど、


 「いない振りをしても無駄だ」


 と言われてしまった。

 本当にバレているのだろうか?

 取り敢えず、魔法で確認して見る。


 ――はい、バレてました。

 仕方なしに姿を現す。

 巧真とお祖父ちゃんも、諦めたのか魔法を解く。


 「あれ? あなたは誰ですか?」


 伶太がお祖父ちゃんを見て不思議そうな顔をする。


 「『正義を殺す者』に話す理由は無いから話さん。どうせ魔法を使えば分かるだろうからな」


 何を反抗しているのか、お祖父ちゃんは質問への解答を拒否する。


 「そうですか。まあいいか。……よし、第二の殺人を始めますか」


 何だって? 第二の殺人?

 ここには、僕、巧真、お祖父ちゃん、伶太の他には誰もいないのに。

 そう考えて、思い当たった。

 ――ま、まさか。

 巧真とお祖父ちゃんも気付いたようだ。


 「被害者は、俺たちか……」

 「ああ。元々はこの町の中から誰かを選ぶつもりだったんだが、お前達が来たのを知って予定を変更したんだ。お前等は、俺の計画を絶対邪魔して来るから、先に始末できるし」


 巧真の呟きに同意する伶太。

 そして、笑みを浮かべた。

 狂気を孕んだ――。


 「さあ、始めようか」


 そう言って、魔法を掛ける素振りを見せた。

 まずい!


 僕は咄嗟に、呪文を唱えた――。


 「秘密と(secret&)孤独(loneliness)ッ!!」

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